5日目:5円タクシー繁盛記
 昨日は雨降りだったからリキシャはお休みだった。しかも傘が吹き飛ばされそうなぐらい強い風が吹き荒れていたから、雨が降っていなくても走れなかったと思う。


【晴れ渡った空と徳島市役所】

 今日は一転して朝から気持ちよく晴れ渡っていた。リキシャ日和。風も昨日に比べれば穏やかだ。
 徳島のテレビ局・四国放送のスタッフがロケ車でホテルの前にお見えになる。ディレクターさんとカメラマン、音声さん、ドライバーさんと総勢4人という大所帯だ。ご多分に漏れず、四国放送さんも昨今の不況によって広告の出稿が大幅に減って経営が厳しいという。そんな中をリキシャ旅に一日お付き合いいただいて感謝。(今日の模様は3月11日(木)午後5時からの情報番組「ゴジカル!」の中で放送されるそうです)


【リキシャを撮影する四国放送のカメラマン】

 徳島市内を走っているときに幼稚園児の行列に遭遇した。近くの公園にお遊戯に行く途中のようだ。保母さんの許可を取って写真を撮らせてもらう。幼稚園児たちにとってリキシャの存在はさほど心惹かれるものではないようだ。「なんか派手なくるまぁ」ってな感じである。それよりも水筒に描かれたアンパンマンや機関車トーマスの方に夢中である。





 幼稚園児よりもはるかに大きな反応を示すのが犬である。道路沿いの家で飼われている犬は、リキシャを見かけると即座に起き上がって大声で吠える。鎖で繋がれていなかったら飛びかからんばかりの勢いで。
 もちろんバングラデシュの犬はリキシャに無反応である。なにしろ100万台走っているんだから、そんなものは見慣れている。日本の犬にとってリキシャは初めて見る得体の知れない存在。野生の本能が「こいつはやばい」と知らせるような存在なのである。飼い犬だからいいようなものの、野犬がいたら怖いね。

 徳島市を出て吉野川沿いを西に進み、阿波市に入る。阿波市は市町村合併できた新しい「市」で、実際のところかなりの田舎である。中心街らしきものは見あたらない。
 阿波市では大型トラックの運転手さんたちを「5円タクシー」に乗せた。全員が60を超えているおっちゃんドライバー軍団である。



「あぁ、兄ちゃんのこと知っとるで。国道を走っとったやろう? わしらムセンで連絡取りよぉからな。仲間が教えてくれるんよぉ。『ヘンな自転車が走りよるよー』ってなぁ。『ありゃきっとベトナムから来たんやで』って」
 と最年長75歳の中原さんが言う。トラックの運ちゃんには無線ネットワークがあって、渋滞情報とか、路上で(リキシャみたいな)変なものを見かけたとか、どこそこに釘が落ちているとか、そういうことを伝え合っているそうだ。

 ツイッターやブログなんかよりも「ムセン」。そういうコミュニティーがあるということを、僕らは意外に知らない。この広い世界にはまだまだネット化されていない領域も残されているのである。でも考えてみたら、ツイッターってアマチュア無線っぽいところがあると思いませんか?
<CQ、CQ、こちら「tabisora7」、聞こえていますか? どうぞ>



 中原さんは昭和29年からトラック運転手一筋である。55年のあいだに10台のトラックに乗ってきた。今のは21年前に買ったもの。2000万円した。
「景気は悪いわ。今までにないほど悪いんとちゃうか。そらわしらは年金ももろてるし、今の仕事は遊びみたいなもんだからええけどのお。今は川の残土を運んどるんよ。高速道路を造っとる現場に持って行く。でも最近は軽油も高いし、儲けは少ないのお」
「それでも働き続けてるんは、なんでですか?」
「そりゃ、国民年金だけでは生活できんからや。それにこいつらが言いよんのよ。『親方、仕事やめたらすぐにボケるでぇ』ってなぁ」



 子供を3人とも大学へやったのが中原さんの自慢だ。自分の腕一本で。
 しかし公共事業の削減と建設不況によって、トラック業界が置かれた状況は厳しい。昔は1年でタイヤを12本も履きつぶしたのに、いまでは1本だけだという。走行距離が減っているということは、それだけ仕事が減っているということ。
 でも、仲間と一緒に愚痴を言い合っている中原さんはなんとなく楽しそうだ。無線でも一人でよく喋っているに違いない。

 阿波市から美馬市にかけて12号線沿いはずっと畑が続いている。ビニールハウスでイチゴやメロンなどの果物を育てたり、露地物ではキャベツや大根やタマネギなどを作っている。
 農機具を売る専門の店もよく見かける。トラクターのショールームには一台315万円で新品のトラクターが出ていた。僕には高いのか安いのかよくわからない。
 自動精米所、コインランドリーも多い。どうして一軒家ばかりの徳島県でコインランドリーが多いのかよくわからない。自宅に洗濯機がない人はあまりいないだろうし、単身者も少なそうなのに。



 御所というところにイチゴの産地直売所があったので覗いてみる。「観光いちご」という地元では有名なブランドのようだ。わざわざ遠くから車で買いに来る人もいる。果肉がとても柔らかくてジューシーだった。
「最近ぬくい日が続いたでしょう? それで柔らこうなったんよ」
 別に物欲しそうな顔をしていたつもりはないのだけど、店番をしていたお母さんは親切にも「これ持って行って」といちごをまるまる一箱くださった。
「はんぱもんを集めたもんだから」とのこと。でも普通に買ったら1300円はするような大粒のいちごである。ありがたい。



 今日の「5円タクシー」は大繁盛だった。
 トラック運転手の皆さんは、実に気前よくポケットの小銭を出してくれた。
 パン屋にお勤めの女性からは50円(五十縁)と一緒に手紙をいただいた。
「三井さんを通じてバングラデシュの人々を少し身近に感じることができました」
 そう感じてもらえることが何よりも嬉しい。
 やたら重くなったポケットの中身を数えてみると、2231円になった。

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本日の走行距離:51.3km (総計:147.5km)
本日の「5円タクシー」の収益:2231円 (総計:2526円)

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by butterfly-life | 2010-03-05 23:23 | リキシャで日本一周


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