12日目:今治街道をゆく(愛媛県・松山市)
 今治はすてきな町だった。
 港の近くに大きな商店街があるのだが、そこはまだ「シャッター街化」していなくて活気がある。車社会のよそよそしさを感じることが少なく、行商のおばあちゃんが荷車を押して歩いているようなレトロな雰囲気も残っている。



 今治はタオルと漁港で知られた町である。商店街の魚屋には朝から新鮮な魚が並び・・・と言いたいところだが、おかみさんの顔は渋い。「最近魚がとれんのよ」とぼやいている。
 港にいる漁師に話を聞くと、ここ数日は魚がまったくとれないので困っているという。今日も出漁を見合わせた。出ても燃料代の無駄になるだけだからだ。
「どうして魚がとれないんです?」
「ほなこと魚に聞いてくれよー。それがわかったら漁師なんてしとらんわ」
 いつも同じように水揚げがあるわけではない。それが漁の実情のようだ。今日のように漁がお休みの日には漁師仲間と世間話をしたり、パチンコに行ったりする。たまに勝つ日もあるがだいたいは負ける。でも1日3000円と決めているから大負けすることはない。

「底引き網漁やからいろんな魚がかかるよ。太刀魚、イカ、タコ、ハマチ、鯛。でも最近は魚の値段が安いし、漁師も厳しいんよ。肉の方が安いじゃろう? 油もたこなっとるわなぁ。昔は一回の出漁で1万円かかったものが、今では倍の2万円や。燃料をドラム缶一本使うからな」
 漁師のおっちゃんたちはみんなよく日焼けしていて、似たような体型をしている。ラグビー選手のようにがっちりとした固太り型。海の上は男の世界、肉体労働の現場なのだ。
「そやけどいまさら他の仕事ができるわけでもないからな。わしら中学を出てからずっと漁師をやっとるし。まぁ漁師一本でがんばるしかないんよ」





 今治市街を離れて松山に向けて南下する。海岸線に沿って蛇行しながら進む「今治街道」をひた走る。右手に見える瀬戸内海は春の穏やかな日差しを受けてきらきらと輝いている。潮のにおいがする。波は穏やかだ。
 途中で出会った漁師さんからクリームパンを、八百屋のおかみさんからはポンカンをいただく。ありがたい。この組み合わせは疲れた体には最高の贈り物だ。甘いパンはすぐにエネルギーに替わるし、筋肉の疲労回復にはクエン酸とビタミンCが効く。それにしてもポンカンの甘さ!



 街道沿いに小さな地蔵をまつった社があって、そこに花を飾っているおばあさんがいた。どうしてこんなところにお地蔵さんがいるのか。返ってきた答えは意外なものだった。
「3年前にここでじいさんが亡くなったんよ。交通事故じゃった。この道を渡ろうとしたときに車にはねられたなぁ。即死じゃった。今でもその光景が頭から離れんのよ」
 街道を走る車は猛スピードで流れているわけではないが、カーブが多いので人に気がつくのが遅れやすいのだろう。この近くには他にも同じように「交通安全」と刻んだお地蔵さんがあったから、事故で亡くなる人が多い危険地帯なのだ。
「この花は自分とこで育てとるものなんよ。毎日来られたらええけど、私も足が悪いからなぁ。あんたも車には気ぃつけてな。まぁこのキラキラした乗りもんやったら、車もよけてくれるやろうけど」



 おばあさんの言うとおり、僕が一番恐れているのは交通事故である。リキシャは小回りがきかないうえにブレーキの効きも悪いので、何か起こったときにとっさに避けることができない。だからなるべく目立って、他の車に「私を避けてください」とアピールするしかない。幸いにしてまだ危険な目には遭っていないが、この先はわからない。
 どうかこのまま安全に旅を続けられますように、という願いも含めて、お地蔵さんに手を合わせた。



 今日は64キロ進んだ。今までの最高記録である。アップダウンは少なかったが、夕方に向かい風が強まったのは辛かった。疲労して「足がない」状態なのに容赦のない向かい風が吹き付ける。ペダルを踏みつけてもなかなか前に進まない。
 それでも何とか5時前に松山市に到着。路面電車が町中を走る様子は情緒があっていいが、それを楽しむ余裕もなく、ホテルのベッドに倒れ込んだ。


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本日の走行距離:64.5km (総計:378.3km)
本日の「5円タクシー」の収益:950円 (総計:5751円)

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by butterfly-life | 2010-03-13 08:48 | リキシャで日本一周


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