42日目:星空を走る(鹿児島県鹿屋市)
 那覇から鹿児島県志布志に向かうフェリーは出発が2時間近く遅れたせいで、予定より大幅に遅れての到着になった。午後4時に港に降りる。からりと晴れ上がった空と少し肌寒い風。ねっとりとしていた沖縄の風とは感触が違っていた。

 志布志から30キロほど西にある鹿屋市に向かう。日没まであまり時間がないが、珍しくよく晴れた日を無駄にはしたくなかった。
 志布志の道は平坦でとても走りやすかった。久しぶりにスピード感のある移動だ。
 道路の脇に広がる田んぼにはすでに苗が植わっている。水の張った田んぼに夕日が反射して美しかった。

 途中コンビニに寄って、おにぎりとオレンジジュースで栄養補給していると、トラックの運転手から声を掛けられた。
「スタートしてからどれぐらい経つの?」
「1ヶ月半ぐらいですね」
「そ、そんなに? あと何ヶ月かかりそう?」
「3ヶ月以上はかかるでしょうね」
「はー、有給休暇をめいっぱい使うとるんやねぇ」
「ええ、まぁ・・・」
 写真家に有給休暇なんてものはないんです、と言おうかと思ったけど、説明するのが面倒なのでやめた。だいたい5ヶ月も有給休暇をくれる会社というのは存在するのだろうか?
 実際のところ、この旅は「有給休暇」という言葉の正反対に位置するもの、つまり「無給仕事」なのである。無給なんだったら仕事とは呼べないじゃないか、という意見もあるかもしれないが、僕にとっては間違いなく仕事なのだ。
 それじゃ仕事とは一体何なのか。というようなことを考え始めると長くなりそうなので、これはまた別の機会に書くことにしよう。

 6時半に日が沈んだ。ミッドナイトブルーに染まった西の空には、舐めかけのトローチみたいにほっそりとした月と、「宵の明星」金星とが並んで浮かんでいる。美しい光景だ。空気が澄んでいるので、ひとつまたひとつと頭上に星が現れる。夜は危ないのでなるべく走らないようにしているのだが、たまには星空の元でリキシャを走らせるのも悪くないなぁと思う。

 鹿屋市の警察署の前で、原付バイクに乗ったおじさんが話しかけてきた。頭に白いものが混じった40半ばぐらいのおじさんである。醤油メーカーの営業をしているそうだ。
「これで旅しているんだねぇ。すごいね」と感心しきりにうなずく。「俺はね、自転車で旅している人にはよく声を掛けるのよ。前も競輪選手みたいな体格の女の子二人組がここを通りかかってね、そのときには缶コーヒーを投げてあげたのよ。そうしたらぱっとキャッチしてさ。ありがとうございますって。いいよねぇ、ああいうコミュニケーションが俺は好きだな」
 おじさんは楽しげに言った。こういう親切な人がいるおかげで、自転車の旅の辛さも半減されるのだと思う。
「今は原付バイクに乗ってるんだけど、前に免停食らってたときには2年ぐらい自転車で通勤していたんだ。自転車は体にいいよ。8キロ痩せたもんなぁ・・」
 そう言い残すと、おじさんは原付にまたがってブーンと去っていった。途中の信号は赤だったのだが、彼は躊躇することなく左折した。
 おいおい、また免停になっちゃうんじゃないの。ここ警察署の真ん前だぜ!


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本日の走行距離:30.0km (総計:1273.5km)
本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:22145円)

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by butterfly-life | 2010-04-20 07:48 | リキシャで日本一周


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