127日目:リンゴと津軽弁(青森県弘前市→秋田県大館市)
 今日も青森の空は気持ち良く晴れ上がった。日差しは強いが、空気が乾燥しているので爽やかだ。「絶好のリキシャ日和」と言いたいところなのだが、リキシャのコンディションに不安が残っているので、浮き立つような気分ではない。思い切り力を込めてペダルを漕ぐとクランク周りが壊れるのではないかという考えが頭をよぎってしまうのだ。昨日も書いたように、クランク周りの「ガタ」はもはやどうにもならないので、このまま進むしかないのだが。

 弘前市を南下して、国道7号線を進む。
 青森といえばリンゴだが、やはりリンゴ畑は多かった。まだ9月のはじめなので赤く色づいているリンゴは少ないが、大ぶりの果実が枝がしなるほどたわわに実っている様子は「リンゴの国」青森ならではのものだった。
 道ばたでいただいた差し入れもリンゴが多かった。農家のおばさんはいましがた収穫したばかりのリンゴを4つもくださった。それを「道の駅」で食べていると、また別のおじさんが「がんばってな」とこれまた大きなリンゴをひとつひょいと投げてくれるのだった。うーん、リンゴの国。



 津軽弁は訛りが強いことで知られているが、本当にその通りだった。特に70歳より上の世代と話していると、意思疎通を図るのすら難しいレベルになる。相手が言っていることがわからないだけでなく、こちらが言いたいこともうまく伝わらないのだ。当然のことながら、その傾向は山奥に行けばいくほど強くなった。

 弘前市と大館市のちょうど中間あたり、林業が盛んな集落で杖をついた老人に話しかけられた。リキシャに大いに興味を持っているようだったが、僕の説明がなかなか通じないのがもどかしかった。ラオスの田舎で農夫と話をしているみたいだった。
「おめぇ名前さなにさ?」
 と老人は訊ねた。本当はもっと聞き取りにくかったのだが、便宜上こう書く。名前は何か。
「三井です」と僕は答えた。
「ん?」
「み、つ、い」
 できるだけはっきりと発音した。
「は?」
 老人は僕の名前をどうしても聞き取れない。困ったな、耳も遠いのだろうか。仕方なく筆談をしようとポケットからメモ帳を取り出そうとしたら、そばにいたおじさんが助け船を出してくれた。僕の発言を津軽弁に「通訳」してくれたのである。「みつい」を津軽弁風に発音するとどうなるのかを文字に記すのは不可能に近いが、あえて書くとしたらこんな感じだろうか。
「むぃつぉんぇ」
 母音が微妙にずれているのである。ほとんど原形をとどめていないと言ってもいい。
 なのに、なのにである。こうして「通訳」された「むぃつぉんぇ」は、見事におじいさんに「みつい」として理解されたのである。不思議だ。本当に不思議だった。


【道路標識まで津軽弁である。「急がば回れ」ではなくて、「急ぐのはダメ」という意味らしい】


 国道7号線は峠道に入った。延々と上り坂が続くので、リキシャを押して歩く。山の中は気温もぐっと下がるので歩きやすい。もう夏の空気ではない。秋の気配が濃くなっている。
 峠道を上りきると青森県と秋田県の県境である。「秋田県大館市」と書かれた標識には、なぜか秋田犬の写真が添えられていた。プリティーな道路標識ある。大館市はあの忠犬ハチ公の生まれ故郷なのだそうだ。
 自宅で秋田犬を35匹も飼っているというブリーダーのおじさんに聞いたところによると、最近秋田犬や柴犬は日本だけでなく外国でも人気が高いのだそうだ。


【缶酎ハイでほろ酔い気分のおじさん。カメラを向けると力こぶを作ってくれた】

 峠を越えると、大館市まで緩やかな下り坂が続いた。
 大館市の市街地に入ると、意外な光景が目に飛び込んできた。町の東に「大」という文字の書かれた山がそびえていたのだ。
「おぉ、あれはまさしく大文字山!」
 大きさも、かたちも、周囲の山の並び方も、京都の大文字山にそっくりだった。生まれてから約30年間を京都の東山で過ごした僕にとっては、あまりにも懐かしい光景であった。
 あとで地元の人にうかがったところ、大館の大文字山は「鳳凰山」という名前で、やはり8月16日の夜には松明で「大」の字を浮かび上がらせる行事を行うのだそうだ。
 去年はリチャード・ギア主演映画「HACHI 約束の犬」の公開に合わせて、「大」の字に「、」を足して「犬」という文字を作ったらしい。京都の「五山の送り火」では絶対に起こりえないエピソードだけど、これを思い付いた人はなかなかのアイデアマンだと思う。



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本日の走行距離:54.3km (総計:5330.9km)
本日の「5円タクシー」の収益:320円 (総計:66135円)

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by butterfly-life | 2010-09-12 21:18 | リキシャで日本一周


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