148日目:和歌山の醤油ラーメン(大阪府堺市→和歌山県和歌山市)
 また雨である。
 「俺になにか恨みでもあるのか?」と天に毒づきたくなるような激しい降りの雨で、大阪の街は白く煙っている。
 本来ならリキシャはお休みしたいところだが、そうも言っていられない。前にも書いたように手持ちのカードは全部使い切ってしまっているので、日程に余裕がないのである。とにかく行けるところまで行こう。

 堺市を出発して、国道26号を西へ進む。
 大阪の街は交通量が多く、しかも運転マナーの悪さでも知られているから、国道を走るのには神経を使った。とはいえ後ろからあおられたり、罵声を浴びせられたりというようなことは全くなかった。助手席の窓から「がんばりやー」と声を掛けてくれる人も多い。ただ、大型トラックが跳ね上げるしぶきがまともに体にかかることがあって、それが体を冷やすのは堪えた。

 雨は周期的に強まったり弱まったりを繰り返していた。1時間激しく降ると、次の1時間はお休みするという具合だ。激しい降りだとブレーキも効かなくなり危険なので、どこか屋根の下を見つけて休む。小ぶりになってくるとまたリキシャにまたがる。当然ながらいつも以上にスローペースでしか進めなかった。

 泉佐野市を抜け、阪南市に入る。ここで和歌山に向かう峠道・山中渓に入る。山の中では雨は細かい水滴になって空中を浮遊していた。まるで雲の中にいるみたいだ。視界も悪い。交通量が少ないのだけが救いだった。ほとんどの車は並行して走る阪和自動車道を通っているのだ。

 雄ノ山峠を上りきり、あとは和歌山市内まで一気の下り坂だ。しかし、あまりにも急な下りでは雨でブレーキが滑って効かなくなる恐れがあるので、リキシャを降りて歩かないといけない。「下りボーナス」を生かせないのがまことに悔しい。

 和歌山の市街地に到着したのは6時半過ぎ。あたりはもう真っ暗だ。
 故障を抱え、雨に濡れながらも、とにかく和歌山までたどり着いたのだ。
 我がリキシャは本当によく走ってくれた。心からご苦労さんと言いたい。

 冷たい雨の中を走り続けて冷え切っていた体を温めてくれたのはラーメンだった。地元の有名ラーメン店「麺屋ひしお」さんが夕食をご馳走してくださったのだ。特選醤油を使ったしょうゆラーメンをすすり、サクサク衣の唐揚げを頬張ると、体が内側からじんわりと温まってきた。



 ラーメン屋さんで僕を待っていたのは、醤油製造会社「湯浅醤油」の社長・新古さんである。新古さんとは3月に徳之島で一度お会いしていた。徳之島で途絶えている醤油造りをもう一度復活させるために島を訪れていた新古さんが、移動中にたまたまリキシャを発見して声を掛けてくれたのだ。

 和歌山湯浅町は醤油発祥の地。鎌倉時代に中国から伝わった味噌を醸造する際に出る水分(たまり)が調味料・醤油の起源なのだそうだ。
「醤油造りで一番大切なのは、麹(こうじ)なんです」と新古さんは言う。「麹が全ての元。元が悪かったら、そのあとどんなに手を加えてもいい醤油にはなりません」
 新古さんは素材にも製法にも徹底的にこだわった醤油を作ると共に、醤油という日本伝統の調味料の魅力と歴史を伝えるために学校などを回って講演を行っている。
「醤油って普段当たり前に使っているものですけど、その価値や歴史が顧みられることがほとんどない。結局『たかが醤油』なんですよ。でも和歌山には職人が丹精込めて醤油造りを行っている本物の工場があるんです。それを知ってもらえれば、『たかが醤油』が『されど醤油』に変わる。僕らはただモノを売っているだけではない。そこに込めた心を買ってもらっているんです」


【日本一の醤油を作りたいという新古さん】

 新古さんは初めてロシアを旅したときに「負けた」と思ったという。極寒の地で、食材も極めて限られている中で、人々が食べている家庭料理が目が覚めるほどおいしかったのだ。日本人が目覚ましい経済成長を遂げる中で捨てていったものを、ロシアの人々は大切に守り続けているように見えた。
「僕らは一度失われたものを取り戻さなければいけないと思うんです。可能性はあります。ちょっと前までなら醤油工場の職人になりたいなんていう若者はほとんどいなかったんだけど、今はうちにも志を持った若い人たちが集まってくるようになった。伝統のものづくりを見直しているのは、若い世代なのかもしれません」

 
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本日の走行距離:60.1km (総計:6480.8km)
本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:73650円)

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by butterfly-life | 2010-10-01 19:45 | リキシャで日本一周


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