カテゴリ:リキシャで日本一周( 152 )
「やらない理由」を並べるのはもうやめよう
 先日、ブログを読んでいる方から長いメールをいただきました。まずはそれを紹介しましょう。


 三井さんはじめまして。
 私は兵庫県在住の○○と申します。
 この場を借りて一言お礼を申し上げたいと思い、唐突ですがメールを送る事にしました。

 昨年、私は念願のバックパッカーになるべく仕事を辞めたものの、時間と資金を得たときにはそれを実行する勇気を失っていました。
 そして、なかなか思い切れずにだらだらと不完全燃焼な毎日を過ごしていました。たくさんの人の旅行記を見ては、それに自分を投影して自分を励まそうとしましたが決心がつきませんでした。
 そんなある時、三井さんのブログを見ていたら、ある言葉に出会いました。その言葉を目にした瞬間に、私の全ての意識がそれに捕らえられました。

 ―場所はどこだっていい さあ旅に出よう―

 次の瞬間に、私の中で四方八方を向いていた矢印が一斉に、一方に、真っすぐに向いたような気がしました。その時から私の旅に向けた旅が始まりました。
 それは私が理想を実現したいという強い願望を、いつも思いつく限りのリスクや不安要素に置き換える小心な自分の葛藤が、限界温度に達した時に見つけた言葉でした。でもその言葉に出会ってからは、なんだか気持ちが軽くなり心の中にできた羅針盤にしたがって、一歩ずつ足を踏み出すことがきました。

 そして昨年末、ついにネパールに一ヶ月の旅行に行ってきました。ネパールが良かったという事も然ることながら、自分にも出来たという達成感と充実感でいっぱいでした。なんだか嬉しくなって、帰国して数日後にまたタイ、ラオス、ベトナム、カンボジアに行ってきました。
 昨日やっと帰宅して、今こうしてメールを書くまでに至ります。

 もちろん、旅行にいこうと決めたのは自分自身です。全て私の人生に於ける出来事は私自身の責任だと思っています。
 でも、私が最も必要としていた言葉を最も必要としていた時に出会ったのは、とても幸運だったと思います。そして何より、その言葉を綴って下さった三井さんにとても感謝しています。本当にありがとうございます。

 一つの壁を越えた事の達成感が何より嬉しくて、まだまだたくさんある眠ったままの希望を実現していく事に、ためらいや、迷いを感じなくなりました。今回の旅で、たくさん泣いて、たくさん笑って得た経験も活かして、これからも前向きに毎日を過ごしていきます。

 最後に、三井さんとたびそらの読者を含め、三井さんに関わる全ての人の幸せをお祈り申し上げ、終わらせて頂きます。




 僕の言葉がきっかけとなって、旅の素晴らしさを知ることができたというのは、とても誇らしいことです。こういうメールをいただくと、10年近く愚直に更新を続けてきて良かったなぁと心から思えます。

<思いつく限りのリスクや不安要素に置き換える小心な自分の葛藤>

 この言葉、すごくよくわかりますよ。僕自身がそうだったから。
 「やらない理由」というのはいくらでも思いつけるんですね。お金がない、時間がない、犯罪に巻き込まれるかも、テロに遭うかも、病気になるかも、飛行機が落ちるかも・・・リストはいくらでも長くすることができます。

 僕が本やブログで伝えたいのは、とてもシンプルなことなんです。
「心配事のリストは、いったん旅に出ればさっぱり消えてなくなる」
 まずやるべきなのは「地球の歩き方」のトラブル欄を熟読することではなくて(できることなら破り捨ててしまいましょう)、小さめのバックパックを買ってきて荷物を詰め込むことなんです。

 未知なる世界に飛び込む前というのは誰だって不安なものです。
 沢木耕太郎さんの「旅する力 深夜特急ノート」にもこんな言葉が出てきます。

<どうしても行かなくてはならないのだろうか。別に行かなくてもいいのではないか。行かなくてもいい理由をいくつも数え上げるのだが、どれも決定的な理由ではない。そうこうしているうちに行くと決めていた日が近づいてきて、仕方なく出発するのだ。(中略)しかし、ひとたび出発してしまうと、それまでの逡巡は忘れてしまい、まっしぐらに旅の中に入っていってしまう>
 
 一人旅をしたことがない人には、この感覚がなかなかわからないと思います。
 長い旅に出ようとする直前、僕は(そして沢木さんも)それほど弾んだ気持ちではない。少なくともウキウキしてはいない。面倒だなぁ、なんて内心舌打ちをしている。
 でも「ひとたび出発してしまうと」その気持ちが180度変わると知っているから、とにもかくにも準備を整えて空港に向かうわけです。

 あなたが僕のブログを探し当て、ある特定の言葉を見つけて「これだ!」とひらめいたのは、すでにあなたの心の中にその言葉に反応する準備が整っていたということに他なりません。きっとあなたは僕のブログを読まなくても、どこかで別の言葉を見つけたでしょう。

 僕ができるのは最後の最後に軽く背中を押してあげること。「今の状態を維持したい」という気持ちと「この日常をひっくり返したい」という気持ちとの間で葛藤を続けている人に、「こっちの道も悪くないよ」と指し示すことだと思っています。リアルな標本として。

 「リキシャで日本縦断」も今の僕にとってはまったく未知のもの。どういう結末になるのかわからない。
 それでもひとたびペダルを漕ぎはじめてしまえば、いい風が吹くに違いない。そういう確信があるのです。
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by butterfly-life | 2010-02-28 11:44 | リキシャで日本一周
リキシャ、都心を走る
 11時に亀戸を出発して、まず東京スカイツリーに向かう。遠くからでもそのデカさは際立っている。まさにバベルの塔だ。すでに高さは300mを超えていて、まもなく東京タワーを抜くという。

 スカイツリーの前でリキシャと記念撮影。でも塔があまりにも高くて、どうやっても同じフレームに収まらない。超広角レンズが必要だった。このあたりではみんな首を45度傾けて塔を見上げているので、派手なリキシャが通っても誰も気にとめない。



 両国国技館に向かう。本場所中ではないので閑散としている。修学旅行生を乗せたバスが止まっているぐらいだ。
 国技館の前でスーツ姿の若者に声をかけられた。トミヤマ君。大学3年生で、ただいま就職活動の真っ最中だそうだ。今日は「ハッピーターン」で有名な亀田製菓の面接に行くという。浅草周辺にはもともと煎餅やおかきの会社が多くて、亀田はその中でも大手だ。どうして米菓会社に絞って就職活動をしているのかは聞きそびれたけれど、就職戦線の厳しさに負けずにがんばって欲しい。


【就職活動がんばれ!】


 秋葉原の近くでサラリーマン風の男性が「写真を撮ってもいいですか?」と携帯カメラを向けた。好きなだけどうぞ。もちろんウェルカムだ。彼は「5円タクシー」には乗らなかったものの(「今は急いでいるので」と言っていたが、あの人混みの中でリキシャの客席に乗るのはかなり恥ずかしいと思う)、財布から40円を出して「バングラデシュの子供たちに」と渡してくれた。最初のお客さんであった。


【九段下で出会った大学生がリキシャを試し乗り。ペダルの重さに顔をしかめていた】


 水道橋にあるパロル舎のオフィスに向かう。写真集「この星のはたらきもの」と「スマイルプラネット」の出版元だ。
 このパロル舎、坂の上にあるのでリキシャを引っ張り上げるのに苦労した。バングラデシュではなかった長い坂。日本縦断ではずっと悩まされることになるであろう坂である。
 編集の渡さん、黒田さん、石渡社長を撮る。今日は昼間から飲んでいない様子。新刊発売が立て込んで忙しそうだった。去年発売した「この星のはたらきもの」もまずまずの売れ行きだと聞いて安心する。

 水道橋から南に下って赤坂に。TBS本社のある赤坂サカス前で天田さんと会う。来月BSで放送されるドキュメンタリー番組のディレクターである。僕も写真家として取材に加わっているので、撮影風景も放送される予定。
 この頃から風が強まってくる。僕はTシャツ一枚なのに、天田さんはダウンジャケット姿で冬の装い。暑いのか寒いのかよくわからなくなってくる。


【赤坂サカスの前で。やっぱり浮いていますね】


 国会議事堂、霞ヶ関周辺は制服姿の警官がやたらと多かった。国の中心だから警備も重々しいのだ。
 白くて高い壁が続く場所があったので、リキシャを止めて写真を撮っていると、一人の警官がつかつかと近寄ってきた。職務質問である。
「ご存じですか? ここは鳩山総理の家なんですよ」
「ええ? 首相官邸なんですか!」
 全然知らなかった。へぇここが首相官邸なのですか。日本の首相ともなると、こんなに高い塀に囲まれて生活しているのです。
 それにしても、それとは知らずに首相官邸の前で記念撮影をしていたというのも間抜けな話である。警察が怪しむのも無理はない。ちょっと頭のおかしいテロリストだと疑われたのかもしれない。
「でもテロを起こす人間はもっと目立たない格好でやってくるんじゃないですか?」
「そうでもないんです。派手な人もいるんです」
 あーそうか。街宣車とかはそうですものね。


【首相官邸前からリキシャがお伝えしました】


 皇居の桜田門の前で写真を撮り(「俺ははとバスか」と言いたくなるような名所巡りですね)、銀座通りを北に向けて進む。東京の人々はおおむねクールで、わざわざリキシャに声をかけてくるような人はいない。横目でちらっと見ることは見るけれど、「そういうのもアリだね」という態度を貫いている。
 でも子供は素直だ。幼稚園の送迎バスが追い抜いていったとき、子供たちは目をらんらんとを輝かせてリキシャを眺めていた。
「すごーい!」「ごうかなじてんしゃー!」
 口々に叫ぶ。こういう反応をしてもらえると嬉しい。

 リキシャの初乗客になってくれたのは、亀戸のおばさんたちだった。
 亀戸天神に梅を見に来たという主婦。千葉県からとれたての野菜をトラックで運んできて、神社の前で売っているという農家のおばさんなど。特にもんぺ姿の産地直送おばさんは初リキシャに大いに興奮していた。
「もう30年もここで野菜を売り続けてるけどね、こういうものを見たのは初めてよ」


【ぶっとい大根を手にしたおばさん】


【亀戸天神に毎日欠かさずお参りしているというおばあさん。代々理髪店を経営しているそうだ】


 亀戸天神ではバングラ人の若者に出会った。ボリシャル出身のラフマン君。来日5年。日本語も流ちょうだ。今は錦糸町の焼き肉屋で働いているそうだ。
 彼もリキシャの出現に目を丸くしていたが、驚いたのは僕も同じだった。こんなところでバングラ人に出会えるとはね。


【バングラ人が東京でリキシャ漕ぐ。なかなか見られない光景である】


 久しぶりのリキシャはヘビーだった。アップダウンが多くて思ったほどペースが上がらなかった。強まった風にも邪魔された。
 でも日本縦断に向けての手応えはつかめた。
 うん、行けそうだ。

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本日の走行距離 : 30.5km
本日の「5円タクシー」の収益 : 270円
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by butterfly-life | 2010-02-26 18:13 | リキシャで日本一周