今回、日本縦断の旅で使うリキシャを提供してくれたのがNGO「ショブジョ バングラ」の三田さんだ。
彼女がバングラデシュに関わりはじめたのは、今から10年ほど前のこと。国際交流のボランティアをしていた三田さんに、知り合いのバングラ人から「NGO設立に協力してくれないか」と頼まれたのがきっかけだった。 1999年に初めてバングラデシュに行き、この国の現実を見てきた。そして貧しい子供たちのための学校をはじめた。最初は民家のガレージを使わせてもらってのスタートだった。通ってくるのはリキシャ引きなどの貧しい家の子供や、メイドとして住み込みで働いている子供たち。様々な理由で公立の学校に通えない子供たちが対象だった。 【写真:貧しい子供たちが通う小学校は、教室の数も先生の数も不足している】 最初の3年は試行錯誤の連続だった。先生のレベルがあまりにも低く、授業の進み具合が極端に遅かった。バングラデシュには先生になるための資格がないし、給料も安いので、モチベーションも低くなりがちなのだ。 しかしアロさんという若い女性教師がやってきてから、学校が劇的に変わった。アロさんはものを教える天賦の才能があった。彼女自身も貧しい家の出身で、小学校にも満足に通えなかったので、同じ境遇にある子供たちに対する理解と、そこから何とか抜け出させたいという情熱とを持ちあわせていた。 「授業を受ける子供たちの目の輝きが全然違ってきたんです」と三田さんは言う。 現在、三田さんの学校には、アロさんを含めた3人の先生と150人の生徒がいる。第一期卒業生の中には大学に進学した子供もいる。学校運営はひとまず軌道に乗り始めたようだ。 「希望する子供たちはみんなハイスクールに行ける仕組みを作りたいんです。でも私がそう言ったら、地元の人に『この国ではハイスクールを出てもいい仕事に就けるとは限らないんですよ。大学出のリキシャ引きを作るためにこの学校を作ったんですか?』と諭されて、しばらく考え込んでしまいました」 バングラデシュでは特に若者の人口が多く、その労働力に比べて働き口が圧倒的に不足している。だから「中途半端な学歴を持って就職難に見舞われるよりも、早めに手に職をつけた方がいい暮らしができる」という現実な見方も説得力を持っているのだ。 学校の運営資金は、バングラデシュの伝統工芸品「ノクシカタ」を売ることによってまかなっている。ノクシカタとは細かなデザイン刺繍を施した布で、今はペンペースなどの小物に加工して販売しているが、将来的には質の良いものを和服の着物や帯に使ってもらおうと考えている。 「私は『バングラデシュは貧しいから買ってください』と言うのは嫌なんです。そうじゃなくて、製品の質で勝負したい。だからノクシカタを売るときにもNGOや学校のことは前面には出していません。友達には『もっとアピールしたら売れるのに』って言われるんですけどね」 三田さんはもともと服飾デザイナーだったので、織物や工芸品に対する独自の目を持っているし、クオリティーに対する要求も高い。だから質の悪い製品を「お情けで買ってちょうだい」と言って売るようなやり方には強い抵抗があるのだ。 「バングラデシュって『貧しさ』とか『自然災害』のようなネガティブなイメージで語られることが多いでしょう? マスコミもそれをわざと強調するようなかたちでしか伝えない。でも実際に行ってみると、そうじゃない部分もたくさんあるんです。日常がいつも悲惨なわけじゃないし、日本にはない活気にあふれているところもある。いい伝統文化もあるんです。でもほとんどの日本人はその価値を知らない。それが残念なんです」 三田さんがリキシャを輸入したのも、リキシャアートの「なんでもあり」の魅力に惚れ込んだからだった。決して高尚なアートではないけれど、作った人の思いが込められている。 独学でベンガル語を勉強した三田さんは、今ではベンガル語の読み書きもこなせるようになった。 「語学の習得は若いときの方がいいって言うけど、あれは本当よねぇ。なかなか新しいことが覚えられないんだもの」 と言うけれど、それは謙遜である。挨拶程度の会話にも難渋している僕とは比較にもならない。語学力からも本気でバングラデシュに関わっている意気込みが伝わってくる。 「これからの目標は、このNGOを現地のバングラ人だけで運営していけるようにすることね。もちろん『ショブジョ バングラ』は小さな組織だから、できることは限られています。資金力だってない。でも小さな組織だからこそできることもあるはずです」 今回の日本縦断の旅では「5円タクシー」という試みを行う。 これも何かの「ご縁」ですから、5円でリキシャに乗りませんか、という半分シャレの呼びかけである。 この5円タクシーの収益金(といっても微々たるものだろうけれど)は、「ショブジョ バングラ」の学校運営のために寄付するつもりだ。 リキシャの乗りたい方。ポケットに5円の用意を!
by butterfly-life
| 2010-02-22 13:46
| リキシャでバングラ一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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