(今日、3月4日は一日雨だったのでリキシャはお休み。なので昨日の日記の続きをどうぞ)
本日はリキシャ日和なり。 朝から気持ちよく晴れている。風は強いが、方向的には追い風なのでペダルが軽い。鳴門市から再び徳島市街に戻る。 モータリゼーションの進んだ徳島では、国道沿いをリキシャで走ってもつまらないことがわかったので、細い旧道を走ってみることにした。 昨日受けた取材がさっそく今朝の徳島新聞に載ったので、何人もの人から「あー、新聞に載っとった人やねぇ」と声をかけられる。徳島新聞は徳島県民の大多数が購読しているらしく、その影響力は強いのだ。町を走っていても「朝日新聞」や「読売新聞」の看板は滅多に見かけない。徳島県民は地元愛が強いらしい。 新聞効果かどうかは知らないが、今日はいろんな方から差し入れをいただいた。車のウィンドウを開けて焼き芋を手渡されたり(これは美味!)、自転車で追いかけてきたおばさんが缶コーヒーを4本くれたり、100円ショップの出口でのど飴を二袋もらったり、シュウマイ屋さんからあつあつのシュウマイをいただいたり。 畑仕事をしていたおばあさんからは青首大根を二本もらった。リキシャに興味を持っている様子だったので、「5円タクシー」の乗客として近所をぐるっと回ってもらった。おばあさんは「こんなもん徳島では見ぃひんけん」と嬉しそう。そのお礼として畑から引き抜いたばかりの泥付きの大根をいただいたのだ。 「一人じゃ食べられませんから」と何度も断ったのだが、 「いやぁ、これは新鮮やけん、生でも食べられるから。農薬も使こうとらんけぇ」 と強引に押しつけられてしまった。そ、そういう意味じゃないんだけどな。まったくマイペースである。 ![]() 84歳の島津おばあちゃんはこの年まで病気になったことがないという。 「何年か前に庭の木の手入れをしとったときに足を踏み外して落ちてな、そのときに病院行ったけど。いやー、骨折なんかしとらん。ねんざっちゅうんでもない」 じゃあどうして病院に行ったのだろうか。とにかくすこぶる健康なのである。 「健康の秘訣っちゅうんは、やっぱり前向きに生きぃることよ。毎日、何かすることを見みつけよぅこと。今日は朝からバスに乗って鳴門の商店街まで買い物に行きよったよ。午後からは畑の草むしりをする。5年ぐらい前から日記をつけるようにしとんのよ。だからボケんわ。ボケる暇がない」 徳島の女性「阿波女」は昔から働き者として知られているそうだ。島津おばあちゃんも阿波女の一人として毎日手を動かし、足を動かして暮らしてきたからこそ、今でもしゃきしゃきしているのだろう。 おばあちゃんは大家族に囲まれて暮らしている。孫はちょうど僕と同じ年代。ひ孫が5人いる。ご主人はずいぶん前に交通事故で亡くなった。 「喧嘩するんも相手がいるやろう。一人では喧嘩もできん。まぁ寂しいわな。人と人は支え合って人なんよ」 ![]() さて、問題はもらった大根をどうするかである。4人家族で毎日おでんを食べ続ければ、3,4日でなくなるかもしれないが、わたしは旅人。台所も冷蔵庫も持たない身である。だからといって捨てるわけにはいかない。 一本目は徳島の駅の近くで買い物カートを押していたおばあさんが喜んでもらってくれた。二本目は金物屋さんの奥さんに差し上げた。するとそのお礼にチオビタドリンクを5本もらった。なんだかわらしべ長者になったような気分だった。 金物屋のご主人浜田さんは60年間ずっと店を守り続けている。このあたりではまったく見かけなくなった古い木造のお店には、歴史を感じさせる緑青色の看板が掲げられている。 浜田さんは僕のリキシャを見て、子供の頃に乗った人力車の思い出を話してくれた。戦前のことである。徳島には自動車なんてものはなく、馬車か人力車しか走っていなかった。浜田少年は祖父母が芝居を見に行くときにお供としてついていくのが嫌だった。芝居なんて全然面白くなかったからだ。ただそのとき乗った人力車は好きだった。高い座席から眺める町は普段とは違って見えた。 ![]() 浜田金物店のように戦前から同じ商売をずっと続けているところは少ない。特に駅前の商店街はすっかり寂れてしまっている。いわゆるシャッター商店街である。もっとも繁華な徳島駅周辺にしたって人出は驚くほど少ない。みんな車に乗って大型スーパーやディスカウントストアに買い物に行ってしまうのだ。浜田金物店が競争を生き延びてきたのは、一般客ではなく建築業のプロを相手にしているからだ。 ![]() 【浜田金物店のご主人浜田さん】 本日泊まるのは県庁の近くにある小さなビジネスホテル。受付に座っていたのは自称「後期高齢者」のおばあさんとそのご主人。ビジネスホテルなのにビジネスライクじゃない。アットホームなビジネスホテルである。 「何日か前に外人さんが泊まりよったんよ。いつもは言葉が通じん人は断りよるんやけど、フェリー会社の人が強引にタクシーの乗せてしもうたって言うて。うちらは英語が話せんけん、何かあったら困るじゃろう」 今どき珍しい「外人さんお断り」のビジネスホテルなのである。でも「言葉が通じん人」として世界各国の安宿を泊まり歩いていた人間としては、こういう態度はぜひ改めていただきたいと思うのである。「何かがあったら」というけれど、それは日本人でも外国人でも変わらないと思うし、言葉が違う異国にやってきた人に対してこそ、ホスピタリティーを発揮するべきじゃないかと思うのだ。 ![]() 【制服を着た小学生たち。「リキシャ乗るか?」と聞くと、「見つかったらヤバいで」と尻込みする。誰に見つかったらヤバいというのか。PTAが黙っていないのか?】 *********************************************** 本日の走行距離:29.8km (総計:94.5km) 本日の「5円タクシー」の収益:20円 (総計:295円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-03-04 21:35
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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