(今日の愛媛は雨模様。リキシャはお休みなので昨日の日記をどうぞ)
何とか雨は上がったが、今日も曇天の一日。最高気温も6度までしか上がらず、冬の寒さだ。 四国中央市川之江町を出発して西に向かう。瀬戸内海に面した海辺の地域には、巨大な煙突とプラントが立ち並んでいる。古くから紙の町として栄え、工場の大半は製紙関係のようだ。白い煙をもくもくと吐き出す様子は非常に男っぽい。 【建ち並ぶ製紙工場の煙突と暗い海】 川之江の商店街もご多分に漏れずシャッターを閉めている店が大半だったが、その中でも営業を続けている畳屋さんと話をした。今日は市営住宅から畳の張り替えの注文がきて、10枚分を貼り替えているところだという。 「最近はどのうちもフローリングになってしもて、畳は少のうなっとるわな。畳っちゅうのは、高温多湿の日本の生活に馴染むように昔の人が考えたものや。汗をかいても畳が吸ってくれよるから涼しい。その代わり、ちゃんと風を通して清潔にしてやらんと、すぐにダニがわく。だから最近の畳はワラやのうて発泡スチロールと木材チップのボードを使ったものが多い。ワラは弾力があるけど重いし、虫も繁殖しやすいからな。畳の表はほとんどが中国製。日本製の3分の1の値段やからな」 新品の畳独特のい草のにおいの中で、ご主人は仕事を続ける。畳を縫い付ける作業は専用の機械が行う。太い畳針を一本一本突き刺していくのは大変な力仕事だから、今でも手作業でそれを続けている職人はほとんどいないそうだ。 産業道路は紙を運ぶ大型トラックがひっきりなしに行き交っていて、リキシャでは走りにくかったので、海辺の道を進むことにした。しばらく走ると、道ばたの女の子から「三井さんですか?」と声をかけられた。ええ、そうですよ。リキシャ三井ですとも。 彼女・中川さんは以前から僕のブログを読んでくれていて、写真集も持っているという。おぉ愛媛に読者を発見! これは嬉しい。 中川さんは会社の昼休みにいつも海辺を散歩している。今日もいつものようにぶらぶらと歩いていると、例の派手なリキシャがキコキコと現れたというのだ。何という偶然。 「すごいラッキーやけど、どうしよう。これで今年の運を使い果たしちゃったかもしれへん」 彼女は若干興奮気味に言う。 ノープロブレム。「5円タクシー」は乗ると運気が上がるパワースポットなのですよ。エヘン。今後も良い「ご縁」があなたに訪れることでしょう。 中川さんは近くの製紙会社でデザイナーとして働いている。生まれてから一度も故郷を離れたことがない。離れたいと思ったこともないという。 「東京や大阪に遊びに行っても、全然楽しくないんです。人が多すぎるし、せわしないし、『消費する町』って感じで好きになれない。ここは海と山に挟まれたところ。この景色を見慣れているから、ビルばっりの都会にいると息苦しくなってしまうんです」 夏が来ると、彼女はよく夜の海を泳ぐ。真っ暗な海の中で仰向けになって、力を抜いて水面に浮かぶ。頭上にはまぶしいぐらいに明るい満月が見える。海はあくまでも穏やかで温かく、どこか別の世界に浮かんでいるような不思議な気持ちになる。彼女はそうやっていつまでも月を眺めている。 「私にとって都会はカラフルすぎるのかな。色が騒々しい。この町はモノトーンなんです。灰色のイメージ。今日のような曇り空だと特にそうだし、たとえ晴れていたとしても基本はモノトーンなんです。でも嫌いじゃないんです。それが」 「将来はここで結婚するつもり?」 「うん、きっとそうするでしょうね。おばあちゃんになってもこの浜辺を歩きたい。孫を連れて。それが私の夢です」 海沿いの道をしばらく走り続けると、小高い山が行く手に立ちふさがった。新居浜に行くためには、この山を越えていく13号線ルートと、山を南側に迂回する11号線ルートがあるのだが、僕はあえて山越えの道を選んだ。たいした山道ではないだろうと高をくくっていたからでもあったし、山の上から海を眺めたいと思ったからでもあった。 しかしその選択は失敗だった。坂道は想像以上に急だったのだ。昨日の徳島・愛媛県境の山道よりもヘビーだったかもしれない。事前にミカンを収穫していたおじさんに注意を受けていたのである。「あんた、この道は大変じゃよ」と。おじさんは「すいかん」の黄色い果実をひょいっと投げて言った。 「ま、若いうちしかでんことじゃけ、きぃつけてな」 【すいかんを収穫していたおじさん。「ミカンは儲からんし、半分趣味みたいなもんよ」とのこと。愛媛県にはミカンの木が多い】 坂道は2キロぐらい続いただろうか。それを登り切るのに1時間はかかったと思う。少し上っては休み、また上っては休む。途中で検問をしていた警官に「がんばれよ」と声をかけられるものの、息が上がって返事をする余裕もなかった。 ようやくの思いで頂上にたどり着くと、あとは下りボーナスである。途中でサイクリストの若者とすれ違う。大きな荷物を両サイドにくくりつけたスポーツサイクルで風を切って走っている。これまでに何人かの長距離サイクリストとすれ違ったが、スピードを緩めたり声をかけてきたりする人はいなかった。このときすれ違った彼も同じ。あくまでもクールであった。きっと自分の目標に向かって突っ走っているのだろう。 午後4時過ぎに新居浜市に到着。道は広く、車は多いが、人通りがないという典型的な車社会の町である。ここでもすれ違うのは下校途中の小学生ぐらい。6年生の女の子二人をリキシャに乗せてあげると、 「マジ、チョー受けるんだけど」と言った。渋谷の平板なジョシコーセー言葉が、愛媛の小学生にまで影響を与えているのである。テレビの力は怖いね。 ホテルに向かう途中で、国際結婚夫婦とすれ違った。フィリピン人の若い奥さんと日本人の旦那さんと息子が一人。僕がフィリピンを旅したときにも、現地の人から「うちの娘は日本人と結婚したんだ」という話を何度も聞いた。出稼ぎ大国フィリピンでは、国際結婚も立派な出稼ぎである。娘からの送金で食べている家族がたくさんいるのだ。ことの善し悪しはさておいて、それがフィリピンという国の現実なのである。 奥さんはモノトーンの町にそぐわないカラフルなリキシャの登場に興奮して、「すっごいねぇ」を連発していた。彼女のアジアの血が騒いでいるのかもしれない。フィリピンにも派手なデコレーションを施した乗り合いジープ「ジープニー」の文化がある。 旦那さんに「新居浜には何がありますか?」と訊ねると、「見りゃわかるやろう。何にもないわな」と言われた。地元の人にそう言われるぐらい何にもないところのようだ。 *********************************************** 本日の走行距離:40.3km (総計:264.3km) 本日の「5円タクシー」の収益:5円 (総計:4726円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-03-09 18:30
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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