朝食はサリカさんの実家でごちそうになった。サリカさんはお父さんがインド人、お母さんが日本人のハーフで、そのこともあってか僕のリキシャに興味を持ってくれて、いろいろと話すうちにじゃあ明日は朝ご飯を食べにいらっしゃいと誘っていただいたのである。
サリカさんはハーフらしく目鼻立ちの大きな美人なのだが、話す言葉はばりばりの都城弁なので、そのギャップが面白い。4才までインドで暮らしていたのだが、今ではヒンディー語も英語も忘れてしまったという。 ![]() 【サリカさんとお母さん、居候のゆうこちゃん】 サリカさんのお母さんはいかにも「九州の肝っ玉母さん」という感じの陽気でさばけた人で、会ってから5分もしないうちに僕のことを「マー君」と呼んでしまうほどである。長年、都城で居酒屋をやっていたそうで、困った人がいると助けずにはいられない性分なのだという。 「昔は店に来た人がよくそのまま店に泊まっていったもんよ。盗られても困るもんなんてなんにもないから。安もんのお酒とかビールしか置いてないし。アハハハ」 今でもこの家には居候が二人いるそうだ。失業中で釣りが大好きなゆうこちゃんと、林業のかたわらジムでトレーニングを続ける女子プロボクサーというなかなかユニークな取り合わせ。そのほかにも入れ替わり立ち替わりいろんな人がこの家にやってきて、お茶を飲み、話をして、ついでにご飯を食べて、お酒も飲んで帰っていく。来る者は拒まず、去る人は追わず、というのがお母さんのモットーなのだ。 「今は居酒屋も息子に継いでもらって、毎日笑いながら暮らしとるんよ。人からのもらいもんだけで十分に食べていけるけんね。甘いもんが欲しいというと、おはぎを10個も持ってきてれる人がおったり、大根くれるいうても1本やないのよ。ひと箱どーんと持ってきよる。あまったもんを人にあげると、その人がまた別のものをくれたりして、いつも冷蔵庫はもらいもんでいっぱいなんよ。だから遠慮なんかせずに好きなだけ食べればええんよ、マー君」 朝のテーブルに並んだのは、3種のソーセージ、レタスのサラダ、煮物、だし巻き卵、きんぴら、漬け物、梅干し、味噌汁、ご飯。とても朝食とは思えないほど豪華だった。もちろんすべてお母さんの手作り料理で、とても美味しい。 ![]() 【サリカさんの甥っ子。インド人の血が4分の1入っていて、とてもかわいい男の子だ】 朝食をごちそうになったうえにお昼のお弁当まで持たせてくれたサリカさんとお母さんに別れを告げて、鹿児島県国分に向かう。 今日は朝から分厚い雲が空を覆っていて、いつ雨が降り出してもおかしくない天気だったから、出発するべきか都城にとどまるべきかでずいぶん悩んだ。ネットの天気予報は二つに割れていた。「ウェザーニュース」では朝から断続的に強い雨が降り、明日は曇り時々雨という予報。一方「日本気象協会」のサイトでは今日は曇り時々雨で、本格的に雨になるのは明日だと予報していた。直前の予報がこれほど違うのも珍しい。それだけ予想しにくい天気だということなのだろうが、さてどちらを信じたらいいのだろう? 結局、雨を覚悟で先に進むことにしたのは、今日も明日も動けないという事態は避けたかったからだ。とにかく今は雨が降っていないのだから、このまま降らない方に賭けてみようと思ったのだ。 しかしその賭けは僕の負けに終わった。出発してから1時間半ほど経ったところで、ついに雨が降り始めたのだ。しかもかなり本格的な降りである。雷鳴が轟き、嵐のような土砂降りになる始末。まさかここまでの降りになるとはね。 とにかくどこかで雨宿りをしようと、目についた会社の車庫にリキシャを入れた。実はここは汲み取りトイレ用のバキュームカーが何台も並ぶ清掃会社の車庫だったのだが、贅沢は言っていられなかった。若干においはするが、土砂降りの雨に濡れるよりははるかにましである。 ![]() 【ガソリンスタンドで出会った仲良しきょうだい】 1時間ほど雨宿りをしていると、一時的に雨が上がったので再出発する。しかし10分も経たないうちにまた雨脚が強くなってきた。やれやれ、嫌がらせみたいな降り方だね。 今度の雨宿り先はプレハブ建築のモデルルーム場だった。様々なタイプのプレハブが10個ほど並んでいる。一応事務所もあるのだが、人の気配はない。「どうぞご自由にご覧ください。用事がある方は下記の番号まで」と書かれた張り紙がある。どのプレハブにも鍵はかかっていないので、勝手に見に来て、勝手に中に入ってもいいのだろう。気に入ったら電話して商談をする。アバウトな商売である。 しばらく雨が止みそうになかったので、プレハブのひとつに上がり込んで休憩することにした。プレハブとはいえ勝手に人の家に入るのは後ろめたかったが、「ご自由にご覧ください」というのだから住居不法侵入というわけではないだろう(もしそうであっても見逃してね。プリーズ)。ちなみにこのプレハブは6畳ほどの広さがあって30万円という格安物件だった。 トタン屋根が雨に打たれる音を聞きながら横になっていると、いつの間にか眠りに落ちていた。目を覚ますと雨は上がっている。急いで荷物をまとめてリキシャにまたがる。 ![]() ピークはもう過ぎたようだが、その後も雨は強まったり弱まったりを繰り返しながら降り続けた。リキシャも体もぐっしょりと濡れる。でも出発したからにはもう引き返せない。ずぶ濡れでも、とにかく前に進むしかない。 霧島市牧ノ原まで、だらだら坂をひたすら上っていく。急な上りではないが、雨で靴の裏が滑りやすくなっているので、いつもより踏ん張り効かずに難儀する。このあたりは濃霧が発生していて、視界が非常に悪くなっていた。信号機の色さえも識別困難なほどの霧だ。もちろん自動車はヘッドライトをつけ、僕もリキシャの前後に取り付けたLEDライトを点滅させているのだが、片側一車線の国道でいつ追突されるかと気が気ではなかった。 牧ノ原から国分までは一気の下り。でもいつもの「下りボーナス」のような爽快感はまったくない。雨の日はリキシャのブレーキの効きも悪くなっているから、ブレーキを握りしめながら慎重に慎重を重ねて下っていく。幸いにして、下り坂に入るころには濃霧も消え、雨も一時的に止んでくれたから走りきれたが、もっと悪いコンディションだったらと考えるとぞっとする。 国分に到着したのは午後6時過ぎ。何とか日のあるうちに辿り着けたのは幸運だった。 *********************************************** 本日の走行距離:41.7km (総計:831.0km) 本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:18825円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-03-24 13:30
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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