福岡市にある「福岡アジア美術館」にリキシャが展示されているという噂は以前から耳にしていた。美術館が買い上げた(おそらくは)世界唯一のリキシャ。これはぜひとも会いに行かなければ。
というわけで本日は博多の街のど真ん中を走り抜けて、美術館に向かった。 ロビーに展示してあるリキシャはぴかぴかに光り輝いていた。装飾も派手だし、細部の作り込みもすごい。もちろん保存状態も素晴らしい。確かにこれなら美術作品として展示されていることにも違和感は感じない。あちこちに錆が浮いて傷だらけになった僕のリキシャがみすぼらしく感じてしまうほどだ。 この美術館所蔵リキシャは、僕のリキシャの兄貴分であった。本体を作った工房も同じだし、ペイントを担当した人も同じなのだ。「いやぁアフメッドさん、いい仕事してますねぇ」と中島誠之助口調でつぶやいてしまうのだった。 ![]() 【福岡アジア美術館に展示されているリキシャ。1994年に日本に運ばれてきたものだ。リキシャを見るだけなら無料だし、写真撮影も自由。福岡にお越しの方は必見です】 学芸員の五十嵐さんにお話をうかがった。五十嵐さんはバングラデシュの伝統的な刺繍「ノクシカタ」に興味を持ち、バングラデシュにも1年間住んだことがあるので、突然の弟リキシャの表敬訪問に大いに興奮してくれた。 「よくもまぁ、リキシャで日本を旅しようなんてこと考えましたねぇ」 「まぁ考えつくのはともかく、それを実行しようという奴はいないでしょうね」 ![]() 【五十嵐さんにリキシャに乗ってもらった】 この「福岡アジア美術館」が設立されたのは1999年。福岡市美術館からアジア関係の所蔵品を引き受けて「のれん分け」されるかたちでのスタートだった。所蔵・展示されているのはアジアの現代美術作品ばかり。世界でもアジアの現代アートを専門に扱う美術館はここだけだという。 常設展も見て回ったが、シュールレアリズム絵画あり、グロテスクな彫刻あり、映像インスタレーションあり、バングラやパキスタンの映画ポスターありと「アートのごった煮」的な印象でなかなか面白かった。 五十嵐さんによれば、この美術館を訪れるのは福岡市民よりも外部の人が多いという。東京や大阪のアジア美術好きの人はもちろん、韓国人、台湾人、それからなぜかドイツ人も多い。 「これまでの現代アート界というのは欧米が中心で、アジアはどうしてもキワモノ的な扱いでしかなかったんです。本流から逸れた傍流でしかないと。アジア美術館が目指しているのは、それとは別のアートの評価軸を作り出すことなんです」 この2ヶ月間、日本でリキシャを走らせていて驚いたのは、「きれい」とか「美しい」という感想を漏らす人の多さだった。リキシャの持つ美しさが多くの人の心に響いているのは素直に嬉しかった。 やっぱりリキシャってのは走ってなんぼなのだと思う。美術館に展示されるよりも、町中を走り回っている方が似つかわしい。リキシャの実用性を無視した過剰な装飾が映えるのは、実際に道路を走る実用の場面なのだ。 空調の効いた展示室の中でぴかぴかに輝く兄リキシャよりも、雨風に打たれ、あちこちに錆が浮き、次第にボロボロになっていく弟リキシャの方が幸せなのではないか。そう思うのはリキシャ引きのひいき目だろうか。 ![]() 【福岡の中心渡辺通りをリキシャが走る。山口英一さん撮影】
by butterfly-life
| 2010-05-06 09:11
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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