3泊もお世話になった山口さんのお宅を後にして、北九州市を目指す。
本日も晴天なり。ニュースではゴールデンウィーク期間中すべての日で晴れたら史上初の快挙だと言っていたが、確かにここ数日の晴れっぷりは見事だ。3月、4月は曇天続きだったから、お天道様がその借りを返してくれているのだろう。 晴れてくれるのは嬉しいが、暑さも相当なもの。昨日も28度まで気温が上がったが、今日もそれに匹敵する暑さになった。リキシャを漕いでいると止めどなく汗が流れてくるので、肘のところに汗が蒸発してできた塩の結晶が浮いてくるほどだ。もちろん水分補給は欠かせない。僕のお気に入りはコンビニで買える500mlパック入りのオレンジジュースだ。105円と安いうえにクエン酸とビタミンCで筋肉の疲労回復にもなる。 福岡県内の国道はどこも交通量が多くて、リキシャが交通の流れを妨げないように路肩ギリギリを走るのに苦労した。路肩には砂利や脱落したボルトやガラスの破片などが散乱していることがあって、うっかり踏んづけてしまうとパンクにも繋がりかねない。 国道ではすれ違いざまに「がんばってぇー」と手を振ってくれる人もいた。はーいがんばりまーす、と手を振り返す。なんだか選挙運動中の候補者みたいだ。 実際に「選挙に出たらいいのに。当選すると思いますよ」と言われたこともある。はぁ選挙ですか。僕は政治の世界に興味がないので出馬するつもりはございませんが、リキシャで選挙区を回るというのは悪くないアイデアだと思う。選挙カーやのぼりを立てた自転車よりもはるかに人目を引くし、何より候補者自ら「汗をかいている」というビジュアルが選挙民に与えるインパクトは大きい。ただ、足を鍛えなきゃならないけどね。 この日もちょうど「幸福実現党」の宣伝カーが反対車線を通りかかって、車に乗っていた3人の白手袋のおばさんが笑顔で僕に手を振ってくれた。政策はともかく、幸福実現党の資金力には本当に驚かされる。日本全国津々浦々、あのポスターを見ないところはないものね。 八幡ではウズベキスタン人のサイフィさんに出会った。北九州市立大学で環境マネージメントを学んでいる留学生だ。来日してまだ1年だが、彼の日本語は上手だった。発音がとてもきれいですねと褒めると、「とんでもございません」と謙遜する。その丁寧さも日本人以上に日本的だ。 サイフィさんはウズベキスタンの首都タシケントの大学ですでに日本語を学んでいたそうだ。シルクロードの要衝都市サマルカンドは日本人旅行者にも人気が高い観光地なので、日本語ガイドの養成には力を入れているそうだ。彼も観光ガイドの仕事をしていたことがある。なるほど、だから言葉が丁寧なのか。 ![]() 【サイフィさんとは橋の上で出会った。背後の結婚式場(教会?)のせいでここが日本だとは思えない】 「日本の環境技術はとても進んでいます。ゴミの分別も細かいですし、リサイクル技術もすばらしい。その中でも北九州市は環境モデル都市に選ばれているんです。だからここに留学しました」 工業都市である北九州市はその発展と共に公害問題も深刻化し、高度成長期には空は煤煙で汚され、海は排水で「死の海」と化してしまった。しかしそこから住民と行政と企業の努力の結果、急速に環境浄化が進んだという経緯がある。北九州市の成功例をウズベキスタンにも役立てたいというのがサイフィさんの目標だ。立派だと思う。 サイフィさんは別れ際に僕の手を握って言った。 「あなたの旅の無事をお祈りしています」 あくまでも丁寧な人なのであった。 本日は八幡の街に泊まる。鉄パイプと煙突でできた重化学工業地帯。勇ましい都市である。 夕食はバイク旅行者の雪本さんと一緒にファミレスで食べた。雪本さんはゴールデンウィークの休みを利用して、大阪から四国、九州を回る旅をしてきた人である。 「三井さんに会うのが、この旅の目的だったんです」 とまっすぐな目で言うので、なんだか照れてしまった。数日前、彼から「大阪からバイクに乗って会いに行きます」というメールを受け取ったときは、どこまで本気なのかしらと思っていたのだが、どうやら本当にリキシャに会うために数百キロを走ってきたらしい。僕が女の子だったら、ちょっとぐらっときちゃうね。 バイク旅行の初日は淡路島から徳島、愛媛を通って八幡浜からフェリーで臼杵に渡った。二日目は九州最南端の佐多岬まで行き、三日目に桜島から高千穂に、そして本日四日目には熊本を通って北九州にやってきた。リキシャがほぼ2ヶ月かけて旅したルートを、バイクだとわずか四日で回れてしまうのである。文明の利器はすごい。それにしても1日300キロから500キロ走るというのは、相当大変なことではないかと思う。僕がアジアをバイクで旅しているときは、100キロから150キロぐらいしか移動していなかった。 ![]() 雪本さんは10代の頃から日本中をバイクで旅している。基本、野宿。道の駅やキャンプ場などでテントを張って寝袋で眠る。 「九州は暖かいだろうと軽装備で来たのが失敗でした。朝晩は相当に冷え込むんで、夜中の3時ぐらいに寒くて目が覚めてしまうんです。昨日は古新聞もらって寝袋に詰めて眠りました。それで少しはマシになったけど、疲れなんて全然取れませんよ」 サラリーマンをしている雪本さんにホテル代が出せないわけではない。それでも野宿を続けるのは、ライダー独特の仲間意識があるからだという。 「野宿しているライダー同士ってすぐに仲良くなれるんです。バイクって雨に降られたら悲惨だし、こけたら死んじゃうような危ない乗り物でしょう。そういうバイクに乗っている者同士、どこか共感するところがあるんです」 ゴールデンウィーク中は道の駅も大混雑で、駐車場すべてが「車中泊」の車で埋まっていたところもあったという。ホテル代を浮かすために家族で車中泊をしている人も多いようだ。 「やっぱり思いは叶うんですね」と雪本さんはまっすぐな目で言う。「どうしても三井さんと話がしたかったんです。何を話すってこともないんですけど、ああいう写真を撮れる人って実際にどんな人物なのか知りたかったんです」 で、実際にどんな人物でしたか、とは怖くて聞けなかった。幻滅しましたよー、なんて言われたら嫌じゃないですか。 意外に小心者なのですよ、私は。 *********************************************** 本日の走行距離:66.2km (総計:1877.9km) 本日の「5円タクシー」の収益:5020円 (総計:32315円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-05-07 22:50
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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