八幡の町から門司港を目指す。
スペースシャトルの実物大模型が目を引くスペースワールドの横を走る。今日はGW最終日のこどもの日とあって、大変な人出だった。もちろん同時期の東京ディズニーランドとは比べるまでもないが、それでもたいしたものである。 スペースワールドは新日鉄が八幡製鉄所の遊休地利用のために作った遊園地だ。絶叫系マシンの種類が豊富で、開園当時は盛況だったが、テーマパークブームが過ぎると入場者数が減り、2005年には新日鉄が経営権をリゾート運営会社に譲渡したそうだ。長崎のハウステンボスも経営難が続いているし、宮崎シーガイアも中核施設が閉鎖に追い込まれた。九州のテーマパークはどこも苦しそうだ。 小倉に向かう国道を走っているときに、バングラデシュ人の夫婦と出会った。九州工業大学で研究員をしているアティクルさんと、同じく九工大の修士課程で学ぶ奥さん。二人はたまたま車で国道を走っているときにリキシャを見かけて慌てて引き返してきたという。 「もう、びっくりしましたよ」 と興奮気味に言う。そりゃそうだろう。まさかこんなところでリキシャに会えるなんてね。 アティクルさんはダッカ大学でコンピューターサイエンスを教える先生で、今は画像処理を学ぶために九工大に籍を置いている。育ちの良いインテリなのだ。この日も白い麻のジャケットに白い帽子という夏のリゾートホテルが似合うようないでたち。バングラではなかなかお目にかかれないスタイルだ。 「モダンなリキシャですねぇ」 僕のリキシャをあちこち(それこそ舐めるように)点検していた奥さんが言う。リキシャに取り付けられたメーターとナビ代わりのiPhoneに対する感想だ。もちろん本場バングラデシュにこのようなハイテク装置は取り付けられていない。 でも「モダンなリキシャ」って形容矛盾ですね。なにしろリキシャってのは前近代の象徴みたいな乗り物なんだから。 ![]() 門司港を抜けて関門トンネルの入り口まで行く。 ここでリキシャを待っていたのは、写真家の井生さんとインテリアデザイナーのカドヤさん。門司に住んでいるお二人がお昼ご飯に誘ってくれたのだ。三人で近くの魚市場の跡地みたいなところに行って、「海の幸バイキング」を食べる。ここは刺身や焼き魚や天ぷらなどが食べ放題というお店で、休日の昼時ということもあって家族連れで大盛況だった。 カドヤさんは自称「日本一周キャッチ人」で、これまでにも日本縦断や日本一周をしている旅人に何度か会ったことがあるという。日本を縦断するにあたって誰もがまず確実に通るのが門司なので、出会う確率が高いのだそうだ。ゆくゆくはそういう旅人に安い寝床を提供するゲストハウスを開きたいという。 井生さんはロシア語通訳者であり、南インドの伝統音楽を専門に撮っている写真家でもある。ロシアと南インド。ずいぶん変わった取り合わせだと思う。ツンドラとカレー。永久凍土とココナッツ。今は一年の大半をインドで過ごしているのだが、ビザが切れたので一時的に日本に帰国しているのだそうだ。世の中にはいろんなことを生業にしている人がいるものだ(って僕が言うのも何だけど)。 海の幸でお腹を満たした後、いよいよ関門トンネルをくぐる。 関門海峡を通って九州から本州に渡るルートは三つある。「関門橋」を通る方法と、「関門海峡フェリー」に乗る方法と、「関門トンネル」を通る方法である。このうち関門橋は高速道路なのでリキシャは走れないし、フェリーは今までにも何度も乗ったから今回はパス。で、関門トンネルを選んだわけだ。 関門トンネルは「車道」と「人道」に分かれている。「車道」は自動車やバイクが、「人道」は歩行者と自転車と50cc以下の原付が通ることになっているので、リキシャはこの「人道」を行くことになる。まず地上からエレベーターに乗って地下50mまで潜ってから、全長は780mのトンネルを行く。ちなみにトンネル内で自転車を漕ぐことは禁止されているので、押し歩きで通行することになる。 ![]() 半分ほど進んだところに、福岡県と山口県の県境がある。白線をまたいでこちらが九州、向こうが本州。リキシャに白線をまたがせて、写真をパチリ。世界には数百万台のリキシャがあるが、海の底を走ったのはこのリキシャだけだろう。 トンネルから出るときも同じ要領でエレベーターで地上に登る。外に出たところに自転車用の料金箱が設置されている。20円(歩行者は無料)。ひどく安いし、うっかり見落としてそのまま通過しても誰も文句を言いそうにない。でも正直者(?)のリキシャ引きは財布から20円を取り出して箱に入れる。チャリン。 するとどこからともなくおじいさんが現れて言った。 「あんたが入れたのは金の小銭か? それとも銀の小銭か?」 「いいえ、私が入れたのは銅貨です」 はい、冗談です。 実際に現れたのは、関門トンネルの守衛のおじさんだった。エレベーターから出てきたリキシャを見て、なんだこれはと守衛室を飛び出てきたのである。 「こんなものは見たことがありません。きれいなもんですなぁ」とおじさんは言う。「そうですか。これで日本縦断を。いよいよ本州に上陸というわけですな。そうですか、そうですか」 おじさんはこのトンネルができて51年目だということや、老朽化が進んでいるので去年改修工事を行った(そのときは歩行者は代行バスを利用した)こと。改修工事はまだ半分しか終わっていないので、今年もまた工事をすることなどを教えてくれた。そうですか、そうですか。 というわけで、旅に出てちょうど二ヶ月。 ついにリキシャは本州上陸を果たした。 *********************************************** 本日の走行距離:70.7km (総計:1948.6km) 本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:32315円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-05-08 23:37
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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