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64日目:だから動く(山口県岩国市)
 旅の前半は雨がよく降ったので、リキシャ漕ぎをお休みする日が多かった。
 旅人にとって「動きたくても動けない」というのは一番辛い状態だ。ゴールに1ミリたりとも近づいていないうえに、宿代だってかさんでしまうのだから。
 そういうわけで「晴れていれば動く」というのが旅の基本方針になっているのだが、このところの晴天続きでオーバーワーク気味になっているようだ。朝目が覚めたときも頭が重く、体全体がだるい。前日の疲れが抜けていない。窓の外は快晴で、いかにもリキシャ日和なのだが、すぐにぱっと外に飛び出していけるような気分ではない。二度寝をして、10時のチェックアウト時間ぎりぎりになって、ようやく荷物をまとめるような有様だ。あれほど待望していた青空が、ちょっと恨めしく思えてしまう。あぁ、また晴れなのかよ・・・。

 長旅には必ず波がある。すべてがうまく行くようなノリノリの時期もあれば、どんよりと停滞が続く時期もある。今はそう、あまり良くない時期だと思う。
 それでもリキシャを漕ぐ。天気は快晴。つまりは天が「進め」と言っているのだ。
 停滞した旅を動かすのは、結局のところ移動しかない。それが長年の旅の経験から得た結論だ。だから動く。

 徳山を出発してすぐに、男の子たちに止められた。赤いトレーナーを着た男の子二人が歩道に立ち、揃って右手を挙げていたのである。そう、タクシーを止める要領で。
「乗せてもらえますか? タクシーって書いてあったものだから」
 二人の父親らしき人がニコニコと笑いながら言った。どうやら車で走っているときにリキシャを見かけて、子供たちを乗せようと先回りして待っていたらしい。もちろん構いませんよ。お子さんを乗せて1キロほどリキシャを走らせることになった。

 リキシャに「5円タクシー」と名付けたのはできるだけ多くの人にリキシャに乗ってもらうためだったが、この名前のインパクトに釣られて、観光用に営業している人力車だと勘違いする人もけっこう多い。まぁそれも無理はないのだけど。ネーミングというのは難しいものですね。

 本日は山を越えて岩国市へと向かう。山陽新幹線と平行に走る国道2号線を行く。
 玖珂という町から伸びる欽明路道路は、長い上り坂が続くハードな山道だった。坂を登りきったところに長いトンネルがあって、後ろから追い抜いてくるトラックに冷や汗をかきながら走った。
 気温は25度まで上がり、日差しは強い。よく「あんたタイ人か?」と真顔で尋ねられるようになったのは、リキシャの南国的デザインのせいばかりではない。

 ときどき「何でこんなに必死になってリキシャを漕がないといけないのか」と思うことがある。自分のやっていることが馬鹿馬鹿しく思えるときもある。でも「はたらきもの」を撮るためには、やっぱり自分が汗をかいて「はたらきもの」になんなきゃいけないんだな。そう思って漕いでいる。そう思い込まないとやってられないんだ。

 午後4時に岩国市に到着。
 有名な錦帯橋がそばにあるという看板を見かけたので立ち寄ってみる。5連のアーチからなる木造の橋である。調和の取れた曲線が周囲の景色に映えている。見事だ。





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本日の走行距離:49.6km (総計:2090.4km)
本日の「5円タクシー」の収益:200円 (総計:32515円)

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by butterfly-life | 2010-05-11 20:23 | リキシャで日本一周


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