本日は広島市から瀬戸内海沿いを南下して呉市に向かう。
瀬戸内海沿いの道はどこもそうだけど、海の際まで山並みがせり出しているので、交通量のわりに道幅が狭くてリキシャで進むのは大変だ。特に広島から呉にかけてはマツダの工場や化学プラントや物流センターなどが立ち並んでいるために、大型トラックの往来も多かった。 牡蠣のシーズンは冬に終わっているが、一部の水産加工場ではまだ機械が動いていた。人の手で殻を取り外して実を取り出し、殻だけがベルトコンベアーでごとごとと外へと運ばれていく。一定量の殻がたまるとトラックで運び出される仕組みだ。へぇ、牡蠣というのはこうやって加工されているのですね。 ![]() 【牡蠣工場のベルトコンベアー】 呉市の港で酔っぱらったおじさん二人組と話をした。若い方のおじさんは昼間からかなり飲んでいて、ときどき舌がうまく回らなくなるほど酔っていた。まだ日が高いというのにこの状態。おじさんはタクシー運転手をしているらしく、夜勤明けの日はこうして昼間から酒を飲んでパチンコ屋に行くのが日課だという。なかなかのやさぐれ具合だ。 「今日はな、パチンコ屋が閉まっとったけぇ、ここに来よったんじゃ。ほやけど、その『5円タクシー』なぁ、ちょっと安すぎやせんかの?」 タクシー運転手のおじさんには、『5円』という激安プライスが気になって仕方がないようだ。これはただのネーミングであって、お金儲けをしているんじゃないんですよ、と説明してもなかなか納得してもらえない。 「やけどな、変な客に『これで岡山まで行ってくれよ』って言われたら、トラブルになるじゃろうが」 「そんな客はいませんって」 「ほんまか?」 「ほんまですって」 「わしはな、心配しとるだけなんじゃ。今の世の中ヘンじゃからのぉ。交差点で赤信号なのに渡ろうとするアホな自転車がおる。そういうのと接触しても、『ぶつかってきた車の方が悪い』っちゅうことを平気で言うのがおるんじゃ」 はい、以後気をつけます。となぜか僕がその自転車になりかわって謝る羽目になってしまった。 ![]() おじさんはどうやら心配性らしく、 「これ盗まれんのか?」(誰もリキシャなんて盗みませんよ。盗んでもすぐにばれるじゃないですか)とか、 「5円タクシーは許可を取っとるのか?」(軽車両は無許可で営業しても構わないんです)とか、 「食べ物はどうしよるん?」(その辺で適当に食堂を見つけていますよ)などと次々に質問してくるのだった。 「パンクせんのか?」 というのは、実はこの二ヶ月間で最も多く受けた質問である。なぜみんなリキシャのタイヤのことを気にするのか不思議である。 前にも書いたように、この2ヶ月あまりのあいだリキシャがパンクしたのは1度だけ。2000キロ以上の距離を走り続けてきたわりには少ない方だと思う。タイヤ自体がとても硬くできている(だから修理には苦労した)ということもあるけれど、普通の自転車に比べてもリキシャのタイヤがとりわけ過酷な条件で使われているかというと、実はそんなことはないのである。 計算してみよう。普通のママチャリの重量は15キロ程度。これに70キロの人間が乗るとして、総重量が85キロ。この重量を二本のタイヤで支えるわけだから、一本のタイヤには42.5キロの荷重がかかることになる。 続いてリキシャの場合。本体重量100キロに70キロの人間が乗って、総重量が170キロ。この重量を三本のタイヤで支えるから、一本のタイヤにかかる荷重は56.7キロ。 ね? あんまり変わらないでしょう? もちろんリキシャは後ろに二、三人のお客を乗せることを想定して作られているから、これよりももっと厳しい条件でもパンクしないようにできている。だからまぁ皆さんの心配は杞憂なのですよ。ハッハッハ・・・なんて笑っていると、いきなりパンクしたりするんだよなぁ。くわばらくわばら。 タクシー運転手のおじさんは別れ際に「これカンパじゃ。取っとけよ」と1000円札を渡してくれた。太っ腹である。口調はぶっきらぼうで、見た目もかなりパンチの効いたおじさんだったが、話してみると意外に親切な人なのである。 根っから人の良さそうな九州人とは違って、山口県や広島県にはおじさんのような「ぶっきらぼうだけど実はいい人」が多いように思う。最初は取っつきにくいのだが、打ち解けると気さくなおじさんおばさんの素顔が出てくるのだ。 呉市は造船の街だった。巨大なドックと建造中の貨物船、海上自衛隊の基地、戦艦大和記念館。なんだか勇ましい街である。 商店街は昭和の香りが漂っていた。街並み自体は古いのだが、活気がないわけではなさそうだ。他の地方都市のように駅前商店街の空洞化はまだそれほど進んではいないようで、場末感の漂う飲み屋や食堂が数十年前と変わらぬ様子で営業を続けている。商店街の角に立つラーメン屋「来々軒」を見たときには、昭和30年代にタイムスリップしたような錯覚を覚えてしまった。 ![]() 【見事な「来々軒」っぷりにいたく感動してしまった】 *********************************************** 本日の走行距離:37.3km (総計:2174.9km) 本日の「5円タクシー」の収益:1025円 (総計:34605円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-05-13 22:08
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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