福山市を出発して国道2号線沿いに倉敷市を目指す。
2号線は走っていて何の面白味も見いだせない道だった。自動車のディーラー、タイヤショップ、ガソリンスタンド、中古車店、大型スーパー、ホームセンター、ファミレス、コンビニ、100円ショップ、パチンコ屋。その繰り返しである。5キロ進んでも10キロ進んでも、エンドレステープのようにこの光景が続く。デジャヴなんてもんじゃない。だんだんと頭が痛くなってくる。自分が今どこにいるのか、どの方向に進んでいるのか、よくわからなくなる。 醜い町だった。誰かが「補助金も!」と叫ぶと、すぐさま他の誰かが「補助金も!」と叫び出す。個人の裁量幅は狭められ、中央からの指示が地方の末端まで行き渡る。この付和雷同社会のなれの果てが、国道沿いの街並みに表れているのだと思う。 島はそうではなかった。そこには固有の名前と顔を持つ人が住み、景色にもそこにしかない独自のトーンがあった。だからこそ旅が面白かった。 確かにチェーン店は便利で安い。品質も一律だから安心感がある。僕もよく利用している。でもこのような画一的で醜悪な街並みが日本国中にあまねく広がっていくことを僕らは本当に望んでいるのだろうか。そのことは一度立ち止まって考えてみる必要があるだろう。 ![]() そんな無個性な街並みの中で目立っていたのがうどん屋だった。岡山県では讃岐うどんのチェーン店がいくつもあって、しのぎを削っているのだ。瀬戸内海を挟んで対岸は香川県だから、岡山にも讃岐うどん文化の影響が強いようだ。セルフサービスのうどん屋は安くてうまくてボリュームもたっぷりある。冷やしぶっかけうどん(大)が430円。麺のコシの強さはさすがだった。 高梁川に架かる鉄橋を渡っているときに、徒歩で旅をしているおじさんに出会った。小さなリュックサックひとつ背負って、歩道をてくてくと歩いていた。1ヶ月前に鹿児島県の佐多岬を出発し、4ヶ月かけて北海道の宗谷岬まで歩く予定だという。おぉ、こんなところで同じ日本縦断者に出会うとは。 「定年退職をして、再就職しようかと思っていたんですが、その前に好きなことをしておきたかった。昔から山登りが好きだったので、日本各地を歩いてみようと思ったんです」 そうして始めた旅が病みつきになり、結局再就職はしないことにした。年金と蓄えがあるから、さほど贅沢をしなければ十分に暮らしていける。 日本を縦断するのは今回が二度目なのだそうだ。前回は日本海側を通ったので、今回は太平洋側を通って北海道まで行く。毎日30キロから35キロを歩く。無理をしすぎると疲労が翌日に持ち越されるので、一定のペースを守ることが大事だという。 「観光地にも寄らないし、美味しいものにもそれほど興味はないんです。日本を一本の遊歩道に見立ててひたすら歩くんです」 「旅の目的は何です?」 「そうだなぁ、目的地にたどり着いたとき、『あぁ、これ以上歩かなくてもいいんだ』と思う。その瞬間のために歩いているんじゃないですかね」 歩く旅人というのはストイックだと思う。自転車やバイク旅行者は自由でどこかふらふらとしている部分があるのだが、歩く旅人はただ前だけを見つめてひたすら歩いてる人が多い。「歩くこと」それ自体が目的であるかのように。 「でも、これが最後の長旅になるでしょうね。もう68ですから、体力的にも厳しいですから」 と彼は言った。でもどうなんだろう。ゴールの宗谷岬にたどり着いたとしても、また何ヶ月か経つと「歩きたい」という気持ちが沸き起こってくるのではないか。旅の病というのはそう簡単に治るものじゃないと思う。 ![]() 【歩く人はストイックだ】 午後4時半に倉敷に到着。倉敷駅の南側にある「美観地区」に向かう。江戸時代の伝統的建物が保存されている観光地である。最初、標識に「美観地区」と書いてあるのを見たときは、「自分で『美観』と名乗るなんてどうかねぇ」なんて思っていたのだが、実際の街並みを一目見ると、「なるほど、これは美観ですわ」と脱帽してしまった。 とにかく美しい街だった。倉敷川沿いの柳並木が風に揺れる様も白壁と瓦屋根で統一された屋敷もすべてが整然としていて、あるべきところにあるべきものがある。規模は小さいけれど、街並みに美しさは京都に勝るとも劣らない。歩いているだけで気持ち良くなれる町だった。 ![]() ![]() ![]() 水は低きに流る。放っておけば、ロードサイドの画一的な風景が日本国中の街を飲み込んでいくだろう。どこを切っても同じ「金太郎飴状態」がさらに進むことになる。 街並みを保存するためには努力と見識が必要なのだと思う。美しいものと醜いものが共にある岡山県を走っていると、つくづくそう感じるのである。 *********************************************** 本日の走行距離:49.9km (総計:2380.8km) 本日の「5円タクシー」の収益:25円 (総計:36135円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-05-24 08:31
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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