京都御所でリキシャ試乗会を開いた。
集まってくれたのは20代の若い男の子が多くて、御所の広場に車座になっての座談会ではディープな質問がぽんぽんと飛びだして、さながら人生相談会のようになってしまった。 ![]() 【御所に遊びに来ていた男の子がリキシャを漕いでみたいというので乗せてあげた。ペダルに足は届かないみたいだったけど】 大学生のサキモト君は、つい先日「就活やめます!」と宣言したという。しかも企業の採用担当者に向かって。自分を売り込む面接の場でのまさかの「やめます」宣言に、さぞかし採用担当者はびっくりしただろうが、意外にも「自分のやりたいことを思い切ってやったらいい」と励まされたのだそうだ。できた人である。 サキモト君ははっきりとした目的意識のないまま就職活動を続けることに疑問を感じながらも、周りの雰囲気に流されるかたちで面接を受け続けていた。それをリセットするために就活の終了を宣言したのだ。 これから中国へ留学するという。就活中のモヤモヤとした気持ちがすっきり晴れているからなのだろう、前向きないい顔をしていた。中国語を身につけてもそれで簡単に仕事が見つかるほど甘いものでないことは彼にもよくわかっている。でも窮屈な日本社会にとどまるより、世界のいろいろなものを見たいと思っている。たとえ失敗しても。 大学でプログラミングを勉強しているカトウ君には、「写真家というのはリスクのある生き方ですよね」と言われた。その通り。リスクの大きな道である。収入は安定せず、そもそも食えるかどうかもまったくわからない。 それでも僕はこの道を選んだことに後悔はない。まったくない。もちろん楽しいことばかりではない。うまく行くことよりも、うまく行かないことの方がずっと多い。でもリスクを冒すだけの価値は十分にある。この瞬間にしか見られない光景や、この瞬間にしか出会えない人に巡り会ったときに、そう感じる。 若いときには、特に20代の頃には、大いにリスクを取ったらいいと思う。たとえ失敗してもやり直しはきく。「自由」というのは、つまり「失敗を犯すことのできる自由」なのだ。成功に至る道筋は一本ではない。 そんなことを話した。 ![]() 【このブログを見ている方が、たまたま京都の町を走っていた】 御所から実家に戻る途中に、幼なじみのB君の家に立ち寄った。 B君は一昨年に脳出血で倒れて、右半身不随になってしまった。右手と右足がまったく動かなくなり、言葉も満足に話すことができなくなったのだ。しかし懸命にリハビリを続けた結果、今では自分一人で買い物に行けるくらいにまで回復した。 倒れてから半年間はずっとふさぎこんでいた。自分の身に起こったことをどうしても受け入れることができなかったのだ。それはそうだろう。30代半ばの人間にとって「健康」というのはそのへんの石っころみたいに当たり前に存在すると思い込んでいるものだから。それが一瞬にして暗転する。 「脳出血って、しょうがないもんや」 B君は繰り返しそう言った。後悔してもどうにかなるものではない。起こったことを受け入れて、最大限努力してみるしかない。そういう前向きな気持ちを持てるようになるまでには、ずいぶん長い時間がかかったようだ。 彼の左脳は今でも大きなダメージを受けているが、少しずつ回復してきている。補助具を使って一人で歩行できるようにもなったし、単語を並べるだけだった発話も、長いセンテンスを話せるまでになった。 100%元に戻ることはないでしょう、とB君のお母さんは言う。それでも80%、90%回復する見込みはある。若い脳はそれだけ可塑性も高いから。 B君に会うのは久しぶりだった。僕が京都から八王子に引っ越して以来、ずっと顔を合わせていなかった。だからB君に直接会って何をどう話したらいいのか、正直言ってよくわからなかった。わからないままリキシャを漕いで彼の家の前まで来た。 B君は思いのほか穏やかな表情をしていた。右足を引きずるようにして玄関まで歩いて行き、とめてあるリキシャを見て、ほんの少しだけ頷いた。 彼は何も言わなかった。僕も何も言わなかった。 でもリキシャをここに連れてきたよかったと思った。 明日何が起こるかなんて誰にもわからない。うまくリスクを回避しているつもりでも、人生には思わぬ落とし穴が待っていることがある。 だから今を、この瞬間を生きる。後悔のないように生きる。 僕はリキシャを漕いでいる。 かけがえのない「今」を生きるために。 *********************************************** 本日の走行距離:10.7km (総計:2687.5km) 本日の「5円タクシー」の収益:4875円 (総計:50700円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-05-30 08:34
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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