リキシャの旅を1ヶ月半ぶりに再開した。
育児休養は1ヶ月のつもりだったが、それが一日また一日と延びてしまったのは、我が子と離れるタイミングがなかなか掴めなかったからでもあり、雨天のせいでもあった。せっかく出発しても雨に降り込められたんじゃたまらないなぁと思いながら、ぐずぐずと出発を遅らせていたわけだ。 梅雨明け宣言が号砲になった。 ぱりっと晴れ渡った空。強い日差しの元で鮮やかな色彩を帯びた景色。それを見るともうぐずぐずしてはいられないと思った。一刻も早く前に進まねば、という気持ちになったのだ。 まずリキシャを保管してある平塚まで戻り、そこから渋谷に向かうのが本日のルートだ。60キロほどの道のりだが、しばらくブランクがあったので体力が持つかどうかが心配だった。 暑さも不安材料だった。梅雨明け後いきなり急上昇した最高気温は32度を超え、雲ひとつない空からは容赦なく紫外線が降り注いでくる。いきなりタフなコンディションでリスタートを切らなければいけなかった。 今日はいつもの一人旅ではなくて、同行者がいた。東京に住む自転車好きの人たちがリキシャと併走してくれることになったのだ。同行してくれた自転車はどれも個性的なものだった。他ではまず見かけない、という点ではリキシャといい勝負の変わり種自転車が集まった。 ![]() 【三輪さんの三輪自転車。愛犬プーさんも同乗】 リーダー格の三輪ノブヨシさんが運転していたのは作業用の三輪自転車である。リキシャと違って前輪が二輪あり、ハンドルの前に大きなラゲッジスペースがある。ここに売り物を乗せて行商したり、商売道具を乗せて移動したりする。これは三輪さんが自分で開発したものである。 実際に僕もこの三輪自転車に乗ってみたのだが、驚くほど動きがスムーズだった。ギアチェンジもできるし、ハンドリングも滑らかで、地面のでこぼこもうまく吸収してくれる。もちろんリキシャとは比較にならない。電動アシストがないのが難といえば難だが、かなり低速のギアがついているのできつい坂道でも脚力だけで登り切ることができる。部品を中国の工場で作ってもらい、組み立ては三輪さんが自分の工房で行う。ちなみに価格は15万円。これまでに12台が売れたそうだ。 「使ってくれているのは、ワッフル屋さん、カレー屋さん、牛乳屋さん、それにジャズドラマーなんかですね。この三輪自転車で商売をすると、なぜか売り上げが伸びるらしいですよ。一番有効に使っているのが、原宿でビニール傘を売っている黒人。ダレルっていうんだけど、彼はすごいですよ。雨が降ってきたら原宿の駅前に行って、1本400円の傘を売る。それが飛ぶように売れるらしいんですよ。コンサートがあった日なんか、1日に50万売り上げたこともあるらしい。傘売り一本で生活していて、雨が降らない日はひたすらジムで筋トレをやっているんだって。変わってるよね」 三輪さんの本業はインテリアデザイナー兼立体アーティスト。椅子のデザインをしたり、立体オブジェを作ったりしている。自転車に乗るのが大好きで、海外にも折りたたみ自転車を持って行って乗っていたのだが、アジアで目にする実用的な三輪自転車がすっかり気に入り、自分で作ってしまったのだという。とにかくものを作るのが好きな人なのだ。 来月には三輪さんが発起人となった自転車のデザイン展「PACIFIC PEDAL LIFE DESIGN」が東京ミッドタウンで開かれる。自転車を「働く」「遊ぶ」「走る」「食べる」「考える」の5つの動詞から考え、実車と映像を交えて紹介する展覧会だ。 実は僕もこの展覧会に参加している。リキシャの旅についてのインタビュー映像や、今回の日本縦断の旅で撮った写真のスライドショーも展示される予定だ。バングラデシュ製のリキシャの展示も行われる(もちろん僕のではないけど本物のリキシャだ)。会期は7月29日(木)から8月27日(金)までと長いので、ミッドタウンに行く機会のある方はぜひご覧あれ。 ![]() さて、この三輪さんの三輪自転車よりも目立っていたのが、清田さんが乗っていた「トールバイク」。これは読んで字のごとく背の高い自転車である。人の背丈ほどの位置にサドルがある。アメリカでは結構ポピュラーらしくて、これでアフリカを横断した人までいるそうだ。外見ほど乗りにくくはないようで、コツを掴めば簡単に乗れるそうだ。問題は止まるときと乗るときで、信号がたくさんあるような都会にはあまり向かない乗り物である。ガードレールなど足置きになりそうな場所がうまく見つかれば優雅に休憩することもできるが、見つからなかったら悲劇である。 「こんなに高い位置にサドルがあるのはなぜですか? 何か意味があるんですか?」と訊ねてみると、 「それを聞いたらおしまいですよ」との答え。 なるほど愚問であった。実用的な意味なんて問う方がおかしいのだ。なんの意味もないからこそ目立つのであり、無駄な苦労をするからこそ面白いのであり、クールなのだ。日本でリキシャに乗るのと同じことである。 ![]() 併走してくれたのは変わり種自転車ばかりではなく、普通のロードバイクもいた。クソ重いリキシャとは正反対の、カーボン製の超軽量バイクだ。それに乗っている北沢さんの仕事はメッセンジャーである。依頼された書類を自転車で迅速に運ぶ仕事だ。自転車なら渋滞知らずだから、オフィス間の書類のやりとりに重宝されている。 「都心部の道だったら全部頭の中に入っていますね。地図を見ることはほとんどありません。ナビもいりません。自転車に乗るのが仕事になるなんていいなぁと思って応募したのがきっかけです。5年前はメッセンジャーバブルとも言われるほど仕事がたくさんあったんですけど、今は暇になりましたね。正直厳しいです」 仕事が少なくなったのは不況の影響でもあるし、インターネット決済が当たり前になって書類を回す必要がなくなったことも大きい。今ではメッセンジャーだけで食べていくのは難しくなり、夜もバイトをしなければいけない。 自転車に乗ること自体を仕事にしているリキシャ引きのような人は、日本ではとても少ない。ぱっと頭に浮かぶのはメッセンジャーと競輪選手ぐらいである。もしかしたら他にもいるかもしれないが、すぐには思い浮かばない。実は今日、途中から合流した富田さんは29年間も現役を続けた元競輪選手だった。メッセンジャーと競輪選手の揃い踏み。すごい。 富田さんが現役を引退したはわずか1ヶ月前のこと。競輪選手というのは意外に選手寿命が長いようだ。もちろん富田さんの太ももは筋肉でぱんぱんだった。アスリートのそれだ。 「太ももが一番太かったのは学生の時。62センチはあったかなぁ。でも太ももというのは一度太くなって、そこからさらにトレーニングをすると締まって細くなってくるんです。よく女の子が自転車に乗り始めると、足が太くなったと言ってやめちゃうんだけど、あれはもったいない。そのまま乗り続けたら細くなるんですよ」 富田さんが乗っていたのは、70年前の医者が往診に使っていたという古い自転車。それをどこかから手に入れ、使える部品と新しく追加したパーツを組み合わせて蘇らせたのだ。クラシックカーマニアというのは良く知られた存在だが、クラシック自転車マニアというのもいるようだ。 ![]() 【二子玉川では野外バーベキューまっさかりだった。あまりの暑さにみんな裸】 以上のようなユニークな自転車たちに囲まれて走る旅は、賑やかで楽しかった。日差しは強く、すぐに汗だくになり、腕には塩の結晶が浮き出てくるほどだったが、なんとか日暮れまでに渋谷にたどり着くことができた。 東京は意外に坂が多く、リキシャではとても上れないような急角度の坂もあったのだが、三輪さんたちが後ろから押してくれたおかげで(ちょっと反則?)難局を乗り切れたことも書き添えておかなければならない。感謝。 *********************************************** 本日の走行距離:58.8km (総計:3306.3km) 本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:55610円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-07-19 00:20
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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