東京から仙台に向かうルートは大きく分けて二つある。水戸、日立、いわきを通る海沿いの道(6号線)と、宇都宮、郡山、福島を通る山間の道(4号線)である。アップダウンの多さはどちらも同じようなものだが、直線距離は4号線の方が短い。しかしそれでも海沿いの6号線を通ることにしたのは、埼玉出会った人に「盆地は暑いぞ」と脅されたからだった。
盆地は暑い。確かにほぼ同じ緯度にある水戸市と結城市を比べてみても、内陸の結城市の方が気温が3度ぐらい高いのである。これから数日は酷暑続きが予想されているだけに、盆地の続くルートを行けば間違いなくすさまじい暑さとの戦いになるだろう。そういうわけで少しでも涼しい海沿いを通ることにしたのだった。 ![]() 本日は埼玉県春日部市から千葉県野田市を通って、茨城県土浦市に向かうという道のり。 野田市ではマレーシアから来たという3人組の男たちに出会った。自動車解体工場のそばを通りかかったときに、リキシャを発見した彼らが「ナニソレ!」と大声を上げたのである。マレーシアにはリキシャ的な乗り物はないようだが、リキシャがインドの乗り物だということは知っていた。 「日本の古い車を分解して、部品をマレーシアに運ぶのが仕事。もう日本に住んで16年になる。奥さんは日本人で子供も二人いるよ」 リーダーのティナさんの日本語は流ちょうだが、他の二人はほとんど話せない。「アツイネ」とか「スゴイネ」ぐらいである。それもそのはずで、背の高いナヴィルさんは日本に来てまだ三ヶ月なのだそうだ。しかももうすぐ母国に帰らなければいけない。 「マレーシア、ベリーホット」 とナヴィルさんはうんざりした表情で言う。赤道直下の国だから、一年を通して暑いのだ。だから35度の猛暑日だからといって特別に暑いということではない。 「わたしベイビーのとき、ホワイトスキンね。でもマレーシア、サンライトでブラックスキンね」 赤ちゃんのときは肌も白かったのだが、マレーシアの太陽のせいでこんなに黒くなってしまったのだと彼は言いたいようだった。本当なのかは知らないが。 めまいがするほど暑くて、街全体がぐったりと眠り込んだような野田にあって、マレーシア人たちの元気の良さは際立っていた。さすがは南国出身。アジアの風がここにだけ吹いているようだった。 ![]() ![]() 野田市からつくば市までの道のりはひどく単調だった。平坦でまっすぐな道を、大型トラックやトレーラーがひっきりなしに行き交う。暑さのせいか、モータリゼーションが進んでいるからなのか、歩いている人も自転車に乗っている人もいない。歩道は荒れていて、伸び放題の雑草が刈られないまま放置されているから走りにくい。 地面には干からびたミミズの死骸が散らばっている。アスファルトの上はあまりにも暑くて、途中で力尽きたのだろう。暑さと死を結びつける象徴としてのミミズ。人もミミズも水がなければ生きていけないのだ。 つくば市の国道では、信号機が故障したせいで大量の警察官が出て交通整理に当たっていた。ミミズだけでなく信号機も暑さに力尽きたようだ。 つくば市で出会った親子から「リキシャガール」のことを教わった。リキシャが登場する絵本の題名なのだそうだ。今年の夏休みの課題図書にも選ばれているらしい。娘さんはこの「リキシャガール」を数日前に読み終わったばかりだった。 「これが本物のリキシャだよ。乗ってみる?」 小学生の女の子二人を乗せたリキシャはすいすいと進んだ。 「で、リキシャガールってどんな本なの?」 僕は後ろを振り返って訊ねた。 「主人公は10歳の女の子なの。お父さんはリキシャ乗りだけど貧しくて、女の子は何とかお父さんを助けようと、自分でリキシャを漕いでみることにしたの。でも運転に失敗して、リキシャを壊してしまって・・・」 途方に暮れた女の子は、なんとかリキシャの修理費を工面しようと一計を案じる。さてさて、それが成功するかどうかは本を読んでのお楽しみ。ちゃんちゃん。 ・・・なんて僕も結末がどうなるのかは知らないので、機会があったら読んでみようと思う。 ![]() バングラデシュが舞台の物語が日本の小学生に読まれているというのは驚きだった。もちろんこれをきっかけにリキシャという乗り物のことを身近に感じてもらえれば、僕としても嬉しい。 「リキシャの乗り心地はどうだった?」 「うん・・・気持ち良かった」 女の子は少し恥ずかしそうに顔を背けて言った。日本のリキシャガールはちょっとシャイなのだ。 「クラスの友達に自慢できるよ。本物のリキシャに乗った人なんて誰もいないからね」 「うん、自慢する」 夏休みはまだ始まったばかりだから、読書感想文は書いていないという。僕としては実物のリキシャに乗った経験も感想文に書いて欲しいんだけど、それは読書感想文の範囲を逸脱していることになるのかもしれない。 ともかく、絵日記には書けそうなイベントだよね。 【○月○日、今日わたしはリキシャに乗りました。】 つくば市を通り抜けて土浦市に入る。日本で二番目に大きな湖・霞ヶ浦の湖畔の街である。 本日はここ土浦に泊まる。明日もまた暑いんだろうか。 *********************************************** 本日の走行距離:51.8km (総計:3437.2km) 本日の「5円タクシー」の収益:500円 (総計:57700円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-07-24 21:19
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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