今日もまた猛暑の一日だった。
昨日よりも汗の出方が激しくて、Tシャツもショートパンツもぐっしょり濡れてしまったのは、今日の方が湿度が高いせいなのだろう。まるで頭から水を被ったみたいに後から後から汗が噴き出してくる。手のひらも汗で濡れているので、ハンドルがツルツルと滑る。 熱中症には水分補給はもちろんのこと、塩分の補給も忘れてはいけないと繰り返しアナウンスされている。確かにリキシャで丸一日走ると、全身が塩だらけになる。腕や顔や首を触ってみると、白く結晶化した塩がざらざらと落ちてくる。人の体は7割が水分で、そこには海水と同じ濃度の塩分が混じっていると聞くが、それは本当なんだなぁと実感する。まるで「自分塩田」だ。 以前、ベトナムを自転車で縦断していた旅人と話をしたことがある。彼はあまりに汗をかくので塩が欲しくなり、食堂に置いてあった小皿の上の塩をそのままつかんで口に運んでいたらしい。そこまで強烈に塩気を欲するというのはどういう状況なのか興味をそそられるが、僕はいくら汗をかいてもさほど「塩欲」というのが湧いてこない体質なので、今のところその気持ちはよくわからない。 【モダン住宅の広告を古い和風民家の壁に貼る。斬新である】 果樹園が広がる土浦市を抜け、「恋瀬橋」というロマンティックな名前の橋を渡って、石岡市に入った。 そこからはひたすら国道6号線沿いを走り続けた。6号線は極めて単調で、直線的だった。アップダウンもほとんどなかったので、距離を稼ぐのにはうってつけの道だった。 水戸市に入ったところで、帽子を被ったおばさん二人組に声を掛けられた。農作業からの帰りらしくて、手に持っていた水筒を開けて、冷たい水をご馳走してくれた。 「パプリカって知ってる? あの赤や黄色のピーマンみたいなやつ。私らはよ、今朝パプリカを採ってたの。ハウスの中はよー、あっついなんてもんじゃねぇよ。45度、いんや50度はあるんじゃねぇかな」 訛りきつい二人の出現に、関東もずいぶん奥へと進んできたのだなぁと感じた。このおばさんは梅干しジュースなるものをくれた。梅干しエキスを水で薄めて凍らせたもので、かなり酸っぱい。はっきり言って全然美味しくないのだが、おばさんに言わせるとこの酸っぱさと塩分が疲労回復に効くのだそうだ。 水戸市に入り、偕楽園、水戸城のそばを通って、再び6号線に復帰する。偕楽園のそばの湖にはスワンボートがいくつか浮かんでいたが、さすがにこの暑さなので全体的に人出が少ないようだった。 【道に落ちていた携帯の裏蓋にあの葵の御紋が。水戸といえば天下の副将軍、水戸黄門だが、その人気はこんなところにも波及している】 炎天下の6号線を時速13、4キロほどのペースで進む。リキシャで長く走るコツは力を抜くことだ。できるだけペダルを「踏み込まない」で進む。そこがポイントなのである。 何度も書いているようにリキシャの基本ポジションは「立ち漕ぎ」である。サドルに座ることは滅多にない。それはリキシャのペダルがやたら重いからなのだが、その立ち漕ぎのやり方が自転車のそれとはずいぶん違うのである。 自転車の場合は、足の踏み込みと同時に腕の力でハンドルを引き寄せる「ダンシング」という方法で坂道を登るのだが、リキシャは三輪なのでそれができない。その代わりに体重移動を使う。足を伸ばしたままで、ペダルの上に全体重を乗せる。「踏み込む」というよりは「腰を入れる」という感じだ。 僕もリキシャを運転し始めてからしばらくは、自転車と同じように漕いでいたのだが、それではダメだということに気がついた。リキシャにはリキシャの漕ぎ方がある。それはバングラデシュのリキシャ引きたちを見ていればよくわかる。 リキシャの旅にスピードは必要ない。いかに体力を消耗させずに走れるかが問題なのだ。次の日も、そのまた次の日も漕がなければいけないのだから、瞬発的な筋肉の使い方をしてはいけないのである。 フォームが安定し、ペダルの重さに筋肉が慣れたことで、一日に走れる距離が徐々に伸びてきた。旅を始めた頃は一日50キロが精一杯だったが、それが60キロ70キロになり、そして今日は80キロに達したのだった。 30代も後半にさしかかると、「できなかったことができるようになる」ことよりも「できていたことができなくなる」ことの方が多くなる。特に体力的には。筋力や持久力は落ちる一方で、あとはその下りの傾斜をいかになだらかなものにするかだけ。それが35歳という年齢なのだ。もう若くはない。その事実は認めなければいけない。 でもそれはそれとして、「自分の限界を超える」というのはとてもチャレンジしがいのある目標だ。一歩でもいいから昨日よりも遠くまで行けたという達成感は、大人だって子供と同じように持てるものだと思う。 やっぱり継続は力だ。 *********************************************** 本日の走行距離:79.8km (総計:3517.0km) 本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:57700円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-07-25 23:14
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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