リキシャの旅が100日目を迎えた節目の日は、体力的に非常に辛い一日になった。
一週間前に旅を再開してからは、意識的に長距離の移動を続けていたのだが、そのハードな旅の疲れが一気にずしんと足に来たようだった。朝から思うように足が動かない。その代わりにやたらと喉が渇く。すぐに水が欲しくなり、飲んだ水はたちまち大量の汗となってしたたり落ちてくる。昼間だけで7リットル以上の水分を取っただろうか。いくら34度だといっても、これは取りすぎだ。 ![]() 今日もまた国道6号線を北上する。 宮城県に入り、6号線を離れて38号線を走るようになってから、ようやく周囲の風景に目をやる余裕が出てきた。大型トラックがひっきりなしに往来する6号線と違って、純ローカルな38号線は別世界のように静かだった。 軽トラックの窓からおばちゃんが顔を出して、「これ、ゆでたばっかしだけど、食う?」と差し出したのはトウモロコシ。朝採れたばかりの新鮮なトウモロコシを塩ゆでにしたものだ。さっそくかぶりついてみると、甘い汁が口いっぱいに広がった。これぞ田舎の夏の味。「となりのトトロ」を思い出してしまった。 このあたりは砂浜に近くて水はけの良い土地なので、スイカやイチゴなどの果物の栽培が盛んなようだ。スイカの無人販売所もあちこちで見かけた。やや小ぶりのスイカが1個500円と安い。 阿武隈川を渡ったのは午後4時だったが、その時点でも道ばたのデジタル温度計は34度を示していた。おぉ暑い。地元の人に言わせると「記憶にないぐらい暑い」という。 川を渡ってからも、目的地の仙台市まではまだ20キロ以上の距離があった。はぁはぁ、と肩で大きく息をするばかりで、いっこうに足に力が入らない。2,3キロ進むごとに休憩しないと進めないような状態だった。 そんなふうにぐったりと肩を落として道ばたに座り込んでいると、すぐそばの食堂で働いているおばちゃんがコップにウーロン茶を入れて持ってきてくれた。 「まぁこれでも飲みなさい」 「ありがとうございます」 一気に飲み干したウーロン茶はキンと冷えていて格別だった。 「こんだけ暑かったら大変でしょう?」とおばちゃんは言った。「まー、若いときはねー、冒険をねー、したらいいと思うけども、体には気をつけてねー」 おばちゃんはちょっと待っていなさいと言って食堂に戻り、おにぎりと漬け物を持って戻ってきた。とても親切な人である。感謝。 キュウリの漬け物と昆布入りのおにぎりを食べ、少し力が戻ってきたところで再びリキシャにまたがった。 仙台に到着したのは日が暮れる頃。午後7時前だった。 まず驚いたのは仙台市の都会っぷりである。中心部に並び立つビル群の密度や、街ゆく人の気ぜわしそうな様子は、紛れもなく大都市だ。名古屋や福岡にも匹敵するのではないか。 仙台ではミュージシャンの石川晃次さんの家に泊めていただいた。去年、石川さんからニューアルバムのジャケット製作を依頼されたことがあって、それ以来のお付き合いだ。米軍基地の前や町工場の裏や河原などで写真撮影をした。 写真をご覧いただければわかるように、石川さんは彫りの深い濃い顔立ちなのだが、彼の作り出す音楽は爽やかでポジティブ。そのギャップが面白い。 自宅にはミキサーやモニタースピーカーやキーボードなどプロ用の機材が揃えられていて(機材にはお金をかけているそうだ)、録音からミキシングまですべて自分一人でこなしている。 ![]() 石川さんは長年音楽活動の拠点をフィリピンに置いていた。まだ若い頃に旅したフィリピンで流れていたポップソングにひと目ぼれし、フィリピンの大物ミュージシャンの元に押しかけて弟子入りし、そこで音楽のイロハを教わったのだという。異色の経歴である。 石川さんが実家のある仙台に戻ってきたのは去年のことで、だからまだ日本でのキャリアは新人同然である。有力なレコード会社にプッシュされているわけでなく、セルフプロデュースのインディーズCDだから、アルバム製作が終わればそれを携えて全国を回る。インストアライブをしたり、地元FMに出演したりして、地道に一枚一枚売っていくわけだ。 僕がリキシャに慣れるまでに1ヶ月かかったという話をすると、石川さんも「ライブで30回歌うと、ようやく自分の曲に慣れてくるんです」と言った。足や腕と同じように声帯も筋肉だから、毎日使うことによって鍛えられていく。自分の声の特徴や響かせ方は、お客さんの前で繰り返し歌うことによってしかわからないものなのだ。 【石川さんのアルバム「SPIRAL」のPV。使われている写真は三井が撮影した】 *********************************************** 本日の走行距離:80.7km (総計:3743.3km) 本日の「5円タクシー」の収益:50円 (総計:59060円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-07-29 22:13
| リキシャで日本一周
|
ツイッター
■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
全体 インド旅行記2016 インド旅行記2015 旅行記2013 インド色を探して 南アジア旅行記 東南アジア旅行記 インド一周旅行記 リキシャで日本一周 リキシャでバングラ一周 動画 バングラデシュの写真2011 カンボジアの写真2010 ベトナムの写真2010 パプアニューギニアの写真2009 インドの写真2009 バングラデシュの写真2009 カンボジアの写真2009 ネパールの写真2008 バングラデシュの写真2008 ミャンマーの写真2008 フィリピンの写真2008 スリランカの写真2008 東ティモールの写真2008 インドの写真2007 カンボジアの写真2007 ベトナムの写真2007 ネパールの写真2006 その他 未分類 以前の記事
2016年 08月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 その他のジャンル
記事ランキング
|
ファン申請 |
||