ここのところ出発前にタイヤを指でつまんで空気の状態を確認するのが習慣になっている。立て続けに二度もパンクが起こっているからだ。
というわけで今朝もタイヤをチェックしてみたのだが、なんとそこでまたも前輪のパンクが発覚したのである。オーマイガッ! わずか5日前にパンクしたばかりの前輪が、修理したにもかかわらずまたもパンクした。もうチューブが限界に来ているのだろうか。 水沢の中心街を自転車屋を求めて走ってみる。意外にもすぐにいくつか自転車屋が見つかったのだが、土曜の朝だからなのかどこもシャッターを下ろしている。ようやく店を開けたばかりの小さな自転車屋さんが見つかったので、店主に事の次第を説明する。 「・・・というわけでパンク続きなんですが、28インチのチューブっていうのはありませんよね?」 断られっぱなしなので、ダメ元の気持ちで訊ねてみた。すると、 「一本だけなら在庫があるよ」と即答するではないか。 おぉ、それは素晴らしい。できることなら3輪ともチューブを交換したいところだが、贅沢は言っていられない。とりあえずこの忌まわしき前輪だけでも交換してもらおう。 28インチのチューブは普通のママチャリのよりもひとまわり大きいだけで、見た目は普通である。バングラデシュ製のチューブは赤っぽい色でゴムも分厚くごわごわしているのだが、このチューブは黒くてしなやかそうである。こちらの方が品質は上だと思うが、果たしてこれがリキシャの荷重に耐えられるのかどうか心配である。 店主は手際よく車輪をフレームから外し、チューブを交換して、また元に戻した。力仕事なので汗がぽたぽた落ちる。ものの20分で修理は終了した。いい仕事してますねぇ。 パンク修理に手間取って出発が遅くなってしまったが、前輪の様子も気になるので、あまりスピードを出さずにそろそろと運転を開始する。そうやって水沢の町を北上していると、頭上から「それでどこまで行くんですかー?」という声がした。見上げると、3階の窓から男性が手を振っている。 「ちょっと待っててください。取材したいんです」 取材? 不思議に思ってその建物を見ると「胆江日日新聞」という文字が見えた。ここは地元紙の編集部兼印刷所のようだ。記者の菊池さんはすぐにカメラを手にして降りてきた。 「いやー、今『派手なそっちに向かって自転車が走ってるぞ』っていう電話があったところで。ここで待っていたんですよ」 このフットワークの軽さこそがローカルペーパーの強みである。何か面白いものがあったら、とりあえず取材。打てば響く感じ。いいですね。 地方には本当に地域に密着した新聞がたくさんあるってことを、僕はこの旅を通じて知った。「南海日日新聞」や「福島民友新聞」や「大分合同新聞」。いずれもリキシャを取材しに来られた新聞である。名前もそれぞれユニークですね。 ![]() 【胆江日日新聞の記者の菊池さん】 金ヶ崎では高校1年生の谷平さんがリキシャの到着を待っていた。中学校時代の担任の先生から「リキシャの写真をゲットしてくるように」との指令を受けたらしい。先生本人はいまカンボジアにいて不在なので、せめて教え子の目にリキシャの姿を焼き付けてもらおうとの親心(先生心)なのである。 谷平さん自身も将来は国際援助関係の仕事をしたいと考えている。だから英語は熱心に勉強している。カンボジアやバングラデシュなどのアジアの国々にも関心がある。 「高校の友達は、みんなこの町を出て行きたがっているのかな?」 「やっぱりそういう子が多いですね。なんにもないですから、ここには。遊ぶところも全然ないし。嫌いじゃないんですよ。静かで、とてもいいところです。でも高校を出たら、みんな都会に行きます。大学も専門学校も、この辺にはないですから」 僕らは金ヶ崎の駅前で話をしていたのだが、本当にまぁ見事なほど何もない町だった。駅のロータリーにはバスもタクシーの姿もなく、乗降客もほとんどいない。田んぼと住宅が延々と続くばかりの土地である。刺激になるようなものは決定的に不足している。 別れ際に谷平さんにレンズを向けた。 「ヤバいっすよ、写真は」 と言うのだが、いったい何がヤバいのか。 「写真は好きでしょう? ケータイとかプリクラとか撮ってるんじゃないの?」 「撮るのはいいんです。でも撮られるのはヤバいっす」 でも撮った写真は全然ヤバくなんてなかった。いい表情だった。 ![]() 北上市から花巻市へと国道4号線を北上したが、あまり興味を引かれるようなものは見つけられなかった。 北上の駅前商店街は典型的なシャッター街で、半分以上の店はシャッターを閉め、残っているのは婦人衣料店と八百屋さんぐらい。シャッターの前には有名人の似顔絵を並べている絵描きのおじさんがいた。300円で似顔絵を描いてもらえるようなのだが、繁盛しているようには見えなかった。そもそも人通りが少ない上に、肝心の似顔絵がいまいちなのだ。それなりにうまくは書けているのだが、「そのまま」なのだ。その人の特徴を誇張して描くのが似顔絵の面白さだと思うのだが、彼の絵にはそれがないのだ。うーん。 ![]() 盛岡市に到着したのは午後6時過ぎ。 駅前には浴衣を着た人たちが集まって何かのイベントが行われていた。聞いてみると、明日から4日間「盛岡さんさ踊り」というお祭りが行われるのだそうだ。この時期、東北では相次いで大規模な夏祭りが開かれる。一日違いで見逃したのは残念だけど、まぁ仕方ない。 *********************************************** 本日の走行距離:72.6km (総計:3938.0km) 本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:59580円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-08-02 03:00
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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