日本最北端・宗谷岬まで30キロ。いよいよ今日、日本縦断が完了する。
しかしその30キロは意外に遠かった。朝から雨に見舞われたのだ。北海道に上陸して以来、本当によく雨に降られている。スカッと晴れ渡ることがなく、ジメジメとした蒸し暑い日が続いている。 9時過ぎになってようやく雨が止んだので、リキシャにまたがった。それでも数十分おきにざっと雨が降り出すようなはっきりしない天気が続く。 やがて国道40号線は丘陵地帯に入った。このアップダウンがきつかった。上っては下り、また上っては下る。まったく旅の女神様は意地が悪い。簡単には目的地に到達させてもらえないようだ。 ![]() 【アップダウンの続く道】 岬まで残り8キロほどのところで、ようやく平坦な道になった。今日のオホーツク海は波は穏やかだがどんよりとした灰色に染まっている。砂浜に打ち上げられた流木が恐竜の化石のような不思議な造形を作っている。波消しブロックの上には白いカモメがきちんと整列して止まっている。もちろん泳ぐ人の姿はないし、サーファーもいない。漁船もいない。ただただ灰色の海が続くばかりだ。 宗谷岬が近づくと、ホタテ貝の加工工場が目立つようになった。このあたりの海はホタテ養殖が盛んなのだ。工場で働くエプロンにゴム長靴スタイルの若者たちが、走り抜けるリキシャに向かって「がんばってくださーい」と大きく手を振ってくれた。ありがとう。 バイクに乗ったライダーたちも、自転車の若者も、ワンボックスカーで旅行している一家も手を振ってくれた。日本最北端というポイントを目指す者同士の連帯感のようなものを感じた。ここが日本の端っこなのだ。これ以上北へは行けない。ノースエンド。 午後1時13分。ついに宗谷岬に到着した。岬の先には「日本最北端の地」という石碑が誇らしげにそびえていた。石碑の周りは記念写真を撮る人で溢れかえっていて、順番待ちの列ができるほどだった。もちろん僕もリキシャと共に石碑の前で記念写真を撮った。普段は記念写真なんて全然撮らないのだが、やはりこれだけはやっておかなければいけない。 それが終わると、石碑の裏側にある「本当の最北端」に座って一息ついた。遮るもののない、どこまでも続く海だ。天気の良い日にはわずか40数キロ先の樺太がはっきり見えるらしいが、今日は曇っていたので叶わなかった。 ![]() ようやくここまで来た。 出発から113日目、4450キロを走り抜いて、リキシャを最北の地に連れてくることができた。 達成感は十分にあった。高揚感もあった。岬の手前2キロぐらいから、頭の中にロッキーのテーマが鳴り響いていた。 それでもまだ「これで終わりだ」という気持ちにはならなかった。もっと進めるはずだ。いや進むべきだ。からだがそう訴えていた。 旅を再開してから2週間。北関東から東北、北海道へ北上を続けるあいだ、毎日80キロという超ハイペースでリキシャを漕ぎ続けてきたのは、自分の限界がどこにあるのかを知るためだった。そして限界ぎりぎりまで自分を追い込んでもなお、自分の中に余力が残っていると感じた。体力はもちろん、気力にもまだ「余り」があった。 まだ行ける。まだ進むことができる。 昨日一日で100キロを漕ぎ、ヘロヘロになりながらも、ちゃんと翌日にはこうしてここに立っている。 ここが旅のゴールではない。まだ先がある。 よし、日本一周をしよう。 ゴールはリキシャの旅を始めた地である徳島県だ。そこまで行けば、この旅を終えられるだろう。日本地図にひとつの環を描くことができるだろう。 腹は決まった。 もうひと踏ん張り、やってやろうじゃないか。 ![]() 【宗谷岬から臨むオホーツク海。ここが日本の果て】 宗谷岬付近では僕と同じように日本縦断を達成した人や、これからそれに挑もうという人たちに出会った。ついさっき自転車で日本縦断を成し遂げたばかりだという若者は、鹿児島からここまでわずか23日で走りきったという。平均すると一日に120キロ。休みなく走ればわずか3週間とちょっとで行けてしまう距離なのだ。自転車というのは速いんですね。 64歳の中根さんは、宗谷岬から九州最南端・佐多岬までの自転車旅を今日からスタートさせたという。仕事を定年退職して、長年温めてきた計画をようやく実行することにしたのだ。34日間で走破する予定だ。 「そりゃ不安はいっぱいですよ。何しろこういう旅は初めてですから。家族にも『若い人に交じって60過ぎのおじさんが何をばかなことを』と言われたりもしたんですが、これは今しかできないことですから」 今しかできないことをする。その気持ちの大切さは20代でも60代でも変わらない。迷っているならやった方がいい。 ![]() 宗谷の漁港では、自転車で旅行中のアメリカ人に出会った。アリゾナ州とペンシルベニア州出身の二人組。網走から自転車で宗谷岬までやってきたそうだ。なかなかの健脚である。北海道の光景はどことなくペンシルベニア州に似ているという。 「さっきあなたが坂道を上っているのを見たわ。すごく大変そうだったけど」 「ええ、ものすごく大変でしたよ」と僕は笑った。「重さが100キロもあるし、ギアだってひとつだから」 「あなたは日本人なのよね?」 「そうですよ」 「日本人って真面目で、時間に正確な人たちだと思っていたけど」 「中にはこういうクレイジーなのもいるんです」 ![]() 宗谷岬を出発してから238号線を稚内に向けて走る。 このあたりは海岸線まで山がせり出しているので平地が少なく、漁船が停泊する小さな港町がぽつぽつとあるだけである。タコやホタテや昆布などが採れるそうだ。 海岸で昆布を並べている夫婦がいた。昆布は採ったその日に天日で乾かすものなのだが、今日は雨がちなのでうまく乾かなかったようだ。その場合には倉庫に作った乾燥機で乾かすそうだ。 「今年はさっぱりだなぁ」と漁師の鈴木さんが言う。「昆布も天候に左右されるから。タコはようとれとるけど、昆布はダメだなぁ」 ![]() ![]() 漁師のおやじさんは昨日とれたばかりの昆布の束を持たせてくれた。 「持ってけ持ってけ。土産にせい」 と言って半ば強引に渡されてしまったのだ。 「いや、でも僕は長旅をしているから昆布をもらってもですね・・・」 「だったら小さくちぎって噛んだらええ。塩分とミネラルの補給になる」 「それはそうですけど・・・」 北海道最北部で採れる昆布は「利尻昆布」として地域ブランドになっている。料亭などで使われる高級食材である。売ればいくらになるのかは知らないが、そんなことお構いなしに「持ってけ」と言ってしまう漁師さんのおおらかさに感心した。 それにしても、どうしたらいいんでしょうね、この昆布は。 *********************************************** 本日の走行距離:60.3km (総計:4581.6km) 本日の「5円タクシー」の収益:155円 (総計:62490円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-08-13 08:34
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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