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120日目:雨と風の北海道(北海道岩見沢市→苫小牧市)
 岩見沢市から南下して、千歳市を経て苫小牧市に向かう。
 朝からきれいに晴れ上がり、強い日差しが照りつける一日になった。
 しかし向かい風には本当に苦労した。田んぼの稲をざわざわと揺らす南風は、立ち止まって見ている分にはなかなか素敵な光景なのだが、それがまともにリキシャの正面から吹き付けるとお手上げ状態になってしまうのだ。時速7キロから8キロ。それ以下になるとリキシャを押して歩いた方が速い。向かい風は少しずつだが確実に気力と体力をそぎ落としていく。体力を消耗すると、カメラを出して写真を撮ろうという気持ちが湧いてこない。


【田んぼの中のリキシャ。こう見えて風が強いんです】

 さらに風が強まると、リキシャを押して進むこともできなくなるので、道路の脇で雨宿りならぬ「風宿り」をする。そうやって風が弱まる隙をうかがうわけだ。
 そんなとき一台の軽トラックが止まった。窓からおばさんが顔を出して、「にぃちゃんトマトでも持って行け」と言った。「とれたてだから甘いよ」
 おばさんは両手一杯のプチトマトと普通のトマトを二個持たせてくれた。さっき自分の畑で収穫してきたもののようだ。新鮮で甘い。大きい方は熟れすぎで売り物にならないようだが、その分果物のように甘かった。
「今日はどこまで行くの? 函館かい?」
「いやいや、それは無理ですよ。苫小牧です」
「そうかい。その自転車で一日どれぐらい走れんの?」
「まぁ80キロがせいぜいですね」
「あ、そう。そんなもん」
 リキシャで80キロ走るというと、他県の人はたいていびっくりするのだが、北海道民のリアクションは素っ気ない。距離感覚が違うからだろう。何しろ広大な土地を持つ北海道では、車で2、300キロ移動することが当たり前だから、80キロといってもたいした距離には感じられないのだ。
「ぐずぐずしてると冬になるよ」とおばさんは言う。「今年の夏は特別に暑いけどねぇ。でもお盆を過ぎたら北海道は急に涼しくなるよ。9月に入ったら寒くなる」
「それまでには本州に渡りますよ」
「そうかい。じゃ、気をつけてな」



 トマトのおばさんが去ってからしばらくすると、突然雨が落ちてきた。にわか雨である。雨が降り出すと同時に風も強まり、真横から吹き付けるような横殴りの雨になった。雨宿りしようにも周りには田んぼしかない。仕方なく折りたたみ傘を差してやり過ごす。後ろから高校生二人組がびしょびしょに濡れながら自転車で走ってくる。彼らにとっても予期せぬ雨だったのだろう。
 
 雲の動きが速かったので、雨は20分もすれば上がった。
 千歳市に入ったところで一休みする。スーパーでオレンジジュースのパックとみたらし団子を買って、花壇の縁に座って黙々と食べる。雨雲はどこかに去り、抜けるような青空と薄い雲が広がっている。目まぐるしく天気の変わる一日だ。



 千歳から苫小牧までの道のりは、これまでの苦労が嘘のように楽ちんだった。風が止んだのである。日中吹き荒れていた風が、夕方になってぴたりと止むということは、これまでにも何度か経験している。「もうへとへとだ。これ以上は走れそうにない」
 というところで、まるでその声を聞いていたかのようにピタッと風が収まるのだ。不思議である。気まぐれな旅の女神さまはいつも最後には慈悲を見せてくれるようだ。


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本日の走行距離:78.7km (総計:4969.0km)
本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:64215円)

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by butterfly-life | 2010-09-03 12:27 | リキシャで日本一周


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