この一週間、さえない天候が続いている。秋雨をもたらす前線がリキシャの動きに合わせて移動しているようにも思えてくる。行けども、行けども、雨。また雨だ。
今朝は窓を叩く激しい雨音で目を覚ました。これではリキシャで走るのは無理だなぁと思って二度寝していると、そのあいだに雨は上がっていた。完全にやんだわけではないが、走ろうと思えば走れる。そういう微妙な天気だ。 こういうときに重い腰を上げるのには力がいる。体は疲れていて、「そろそろ休ませてくれよ」と言っているのだが、その一方で「こんなところでぐずぐずしているわけにはいかない」という気持ちもある。ゴールの日にちを決めているから、丸一日を無駄に過ごしている余裕がないのだ。 というわけで荷物をまとめてリキシャに乗る。たいした雨ではないから、カッパを着ればなんとか走れる。 魚津市を出て海岸線を西へ進むと、すぐに滑川市に入った。滑川市(ちなみに「なめかわ」ではなくて「なめりかわ」と読む)はホタルイカの水揚げが多く、「ほたるいかミュージアム」なる建物や、「ほたるいか祭り」や「ほたるいかマラソン」といったイベントが行われているそうだ。 ちなみに10月10日に行われる「ほたるいかマラソン」のポスターには、「ほたるいかの光りのように 輝く自分を見つけよう」という取って付けたようなキャッチコピーが書かれていた。ほたるいかのように、ねぇ。微妙だね。 ![]() しばらく走ると雨脚が強くなってきたので、国道沿いにあるうどんチェーン「丸亀製麺」で早めの昼食をとる。厨房で働いているおばちゃんたちが駐車場に止めてあるリキシャを見て、「これで日本一周してるの?」と目を丸くした。 そうなんですよ、と答えると、「それじゃサービスしてあげるよ」と言って、かしわの天ぷらやおにぎりをタダで付けてくれた。ありがとうございます。個人経営の食堂ならいざ知らず、全国展開しているチェーン店なのにこういう融通が利くところが素晴らしい。 西日本を中心にチェーン展開している「丸亀製麺」は、この旅で頻繁に利用しているお店のひとつだ。讃岐うどんのおいしさと、揚げたての天ぷらのボリューム、それに値段の安さが気に入っている。働いているおばちゃんたちが一様に明るいところもいい。マニュアル通りに「いらっしゃいませー!」「ありがとうございまーす!」と連呼するだけのロボット的店員ではなくて、従業員一人一人にちゃんと表情があるのだ。 この5ヶ月間、日本全国を旅しながら様々な外食チェーンを利用してきたわけだけど、ここで僕が独断と偏見で決める「全国外食チェーンランキング」を発表したいと思う。(このランキングは「安さ」と「ボリューム」に重きを置いていることをご了承いただきたい。リキシャを漕ぐためには何よりもカロリーが必要だからだ) 第一位は「丸亀製麺」。 おばちゃんにサービスしてもらったから一位になったわけではない。味もボリュームも安さも、全てが満足できるレベルなのだ。僕のお薦めは「とろろぶっかけうどん」と「かしわの天ぷら」である。讃岐うどんのコシの強さとツルツルとした喉ごしが、300円台という低価格で味わえるのは本当にすごい。 第二位は「ジョイフル」。 九州で圧倒的なシェアを誇るファミレスチェーンである。ツイッターでもたびたびつぶやいているが、ここの売りはなんと言っても安さ。特に日替わりランチはおかずのボリュームもあり、ライスも大盛りにできるのに、400円という信じられない価格。ドリンクバーも安いので、いつもお客さんで混み合っている。 残念なのは、いまのところ関東より東にはほとんど出店していないこと。今後はジョイフルにどんどん東に進出してもらって、中途半端なファミレス(どことは言わないが)を蹴散らしてもらいたいものである。 第三位は「サイゼリア」。 言わずと知れたイタリアン・ファミレス。ここも安さを売りに全国展開しているが、それでいてピザもパスタも決して味は悪くない。僕のおすすめは「真イカとアンチョビのピザ」。たっぷりと汗をかいた体にアンチョビの塩気がたまらない。ハウスワインが信じられないぐらい安いのも嬉しい。 第四位は「ビッグボーイ」。 店舗数はあまり多くはないが、地味に全国展開しているハンバーグレストラン。なぜか北海道に多かった。ここの売りは充実のサラダバー。ハンバーグとセットにするとそれなりの値段にはなるが、新鮮しゃきしゃきのサラダを好きなだけ食べられるのは魅力的。外食ばかり続けていると不足しがちな野菜がたっぷりと補給できるのは嬉しかった。 ちなみにこの「ビッグボーイ」。なぜか場所によっては「ビクトリアステーション」とか「ミルキーウェイ」といった違う名前の看板を掲げているのだが、経営母体は同じらしくて、名前は違ってもメニューと値段はまったく同じなのである。どうして「異名同根」という不思議な戦略をとっているのかは不明。でもおいしい。 第五位は「マクドナルド」。 マックって安いことは安いけれど、正直言ってあまりおいしくないなぁと思っていたのだけど、その認識を一変させたのが、朝限定メニューの「ソーセージマフィン」である。これはうまい。なのに100円。これには驚いた。肉のうまみも、カリッとしたパンの食感も、通常のハンバーガーよりはるかに上質だ。しかし朝にしか食べられないというのは残念だ。だから今のところマック(ああしまった、関西人はマクドって言うんだった)を利用するのは朝だけである。 閑話休題。 リキシャの旅に戻ろう。 滑川市を西に進み、富山市に入る。しかし富山市では市街地に入らずに、北部の国道を走り抜けただけなので、これといって書くべき事はない。富山市民の皆さんには申し訳ないが、北風が強かったことと、横殴りの雨に難儀したことぐらいしか印象に残っていない。穏やかな晴天に恵まれていたら、もっと違った富山を味わえたに違いないのだが、旅の印象というのは往々にして天候に大きく左右されてしまうものなのである。 思い出した。富山市でひとつだけ印象に残ったものがあった。 神通川にかかる長い橋を渡りきったところに、古い白黒写真が落ちていたのである。雨に濡れてふやけてはいたが、写っている女性の姿はまだ鮮明だった。 僕はリキシャを止めて、その写真に見入った。結婚式のときに撮られたもののようだった。写っているのは豪華な着物を着て角隠しを被った若い女性。もう一枚の写真には、古いかたちの自動車に乗り込もうとしている花嫁の姿がある。撮られたのは戦後間もない頃だろうか。ひょっとしたら戦前かもしれない。いずれにしても半世紀以上前の貴重な写真であることは間違いない。 ![]() それにしても、どうしてこんなに古い写真が道ばたで雨ざらしになっているのだろうか。それが不思議で仕方なかった。仮説はいくつか考えられる。たとえば、写真に写っている女性が住んでいた家が取り壊されたときに、この写真だけ風に飛ばされてしまったとか。あるいは、亡くなったおばあちゃんの遺品整理をしているときに、たまたま通りかかった野良猫がこの写真を気に入ってくわえて行ってしまったとか。 一枚の写真からあれこれと想像を膨らませるのは楽しい。古い写真はタイムカプセルのようなもので、何十年も後になって見直すと、まったく別の価値が生まれてくる。 僕がこの旅で撮った写真も50年後(そのときまで生きているだろうか?)に見直すことがあれば、また違う発見があるに違いない。 午後からは再び雨脚が強まったので、富山市から高岡市までひたすらリキシャを漕ぎ続けた。風は強かったが、昨日のような向かい風でないのが救いだった。 天気予報では「この雨は空気を夏から秋に入れ換えるでしょう」と言っていたが、本当にその通りで、午後になると朝方よりもずいぶんと気温が下がってきた。リキシャを漕いでいてもだらだら汗をかくことはなかった。 4時過ぎに高岡市に到着した。駅前では「ツイッターを見てますよ」という女性に声を掛けられた。アルバイトに行く途中、たまたまリキシャを見かけたので驚いたそうだ。 彼女によれば、高岡市は地味な町で、銅を使った仏具や鐘の生産で有名なのだそうだ。日本三大仏(!)のひとつ高岡大仏も銅で作られている。アルミサッシの生産額日本一の町としても知られているそうだ。金属加工の町、高岡。なかなかすごいじゃないですか。 *********************************************** 本日の走行距離:46.6km (総計:6033.1km) 本日の「5円タクシー」の収益:5円 (総計:71670円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-09-24 20:26
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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