快晴の朝。風もなく穏やかな琵琶湖の湖面が、朝日を受けてまぶしく輝いている。
文句のつけようのないリキシャ日和だった。少なくとも午前中までは。 本日は琵琶湖の北端から湖の西岸を南下して、大津市から京都市に向かう。5月には琵琶湖の東岸を走っているから、これでほぼ琵琶湖一周したことになる。ちなみに琵琶湖を自転車で一周することを業界(←何の?)では「びわいち」と言うらしいが、僕の場合は「ほぼいち」である。 ![]() マキノ町の湖西道路を走っていると、ヒガンバナが一面に咲く場所に出た。松の木漏れ日の中に、真っ赤なヒガンバナが何百本も並んでいる。地元の写真愛好家たちもヒガンバナにレンズを向けていた。 「ここは写真仲間のあいだでは有名なんですよ」 と愛用のペンタックスと重そうな三脚を抱えたおじさんが言った。 「ヒガンバナは撮るのが難しいんです。私なんかだとどうしてもクローズアップで撮ってしまう。上手い人だと全体の雰囲気を捉えるような写真を撮るんですけどね」 僕も花や自然を撮るのは苦手である。目で見たイメージと、撮った写真とのあいだにズレがある。まだまだ修行が足りないようだ。 ![]() 昼頃から向かい風が強まり、穏やかだった琵琶湖の湖面にも大きな波が立つようになった。いつの間にか空は暗い雲に覆われている。天気は下り坂のようだ。 堅田を通り過ぎ、雄琴にやってきた。雄琴には昔から名の通った歓楽街、いわゆるソープ街がある。ラブホテルやソープランド、飲み屋、アダルトショップなどがひしめく夜の街である。しかしぱっと見たところ、どれも一様にうらびれている様子だ。看板は色あせ、ホテルの壁には長いひびが入っている。今はあまり栄えてないようだ。 平日の午後2時過ぎだというのに、ソープ店の前にはちゃんと客引きの男が立っていた。スキンヘッドに口ひげを生やしている。見るからに堅気じゃなさそうだ。しかしこの客引きのおじさんは、僕のリキシャを見るなり両手を高々と挙げて「おー、がんばれよー!」と声援を送ってくれたのだった。笑顔は意外にチャーミングだった。 雄琴の外れでも明らかに「そっち系」のなりをした人に話しかけられた。昇り龍を刺繍したトレーナーを着て、濃いサングラスをかけ、頭はパンチパーマ。車は当然のようにベンツで、窓には全てスモークを貼っている。そういう「ミナミの帝王」からそのまま抜け出してきたような人が、映画の中ではなく現実にいるということにちょっと驚いてしまう。ある意味ではこれもコスプレだ。 「にぃちゃん何しとるんや?」 と銀次郎(勝手に命名)は言った。 「これで日本一周しているんです」 「これでって、このデコトラみたいな自転車でか? かー、シャレにならんなぁ、にぃちゃん。まぁ頑張って」 銀次郎はそう言うと、僕に缶コーヒーをひとつ放ってくれた。銘柄はBOSS。もちろんブラックだった。 ![]() 【安曇川という町では、扇子を作っている職人さんに出会った】 午後からは向かい風に邪魔されて、なかなかリキシャのスピードが上がらなかった。雲行きが怪しかったので、雨が降らないうちにできるだけ進もうと懸命にペダルを漕いでいたのだが、健闘もむなしく浜大津の手前で雨が降り始めてしまった。 最初はぽつぽつと、しかし30分もしないうちに本降りに変わった。カッパを被って走り続けるも、腕も足もズボンも靴も何もかもずぶ濡れになってしまった。雨宿りをしたところですぐには止まないだろうから、とにかく走り続けるしかない。 ![]() 浜大津から山科に向かう国道1号線は長い上り坂である。昨日の峠道に比べたらたいしたことないのだが、容赦なく降る雨に気力と体力を削がれた。 反対側の車線は帰宅ラッシュのための渋滞で車が列をなしていた。ハンドルにもたれかかった運転手が不思議そうな顔でリキシャを眺めている。降りしきる雨に打たれながら、やたら派手な三輪車を引っ張って歩いている男。こいつはいったい何をしているんだ、というクールな表情だ。 雨の日は下り坂も難所になる。リキシャのブレーキが効かなくなるからだ。フルブレーキをかけても止まらなくなる恐れがあるので、急な下りはリキシャを降りて歩く羽目になる。せっかく上ったのに、そのエネルギーを生かせないのは悲しい。 山科から蹴上まで下り、南禅寺の横を通って白川通りを北上する。 実家に到着したのは6時半。 体が芯から冷えてしまったので、熱い風呂に入って体を温めた。 *********************************************** 本日の走行距離:75.6km (総計:6331.4km) 本日の「5円タクシー」の収益:0円 (総計:73625円) ***********************************************
by butterfly-life
| 2010-09-29 22:48
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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