今日も台風の影響で、強い追い風が吹いていた。風のアシストを受けたリキシャは速度を上げて、福井県に向かう。
久しぶりにすっきりと晴れ渡った気持ちのよい一日だ。 国道8号線を南下して峠をひとつ越え、石川県から福井県に入る。 ![]() 【ソバ畑と青空】 ![]() 【リキシャに乗って大喜びの中学生】 福井市では元競輪選手のおじさんに出会った。去年引退するまで、福井競輪で31年間現役だったそうだ。肉体を使う競技なのに30年以上も現役を続けられるというのは驚きである。 「レースといっても月に2回か3回だけですから。辞めるまで200勝です。まぁ中級ですよ」 と謙遜気味におっしゃったが、「無事是名馬」という言葉にあるように、怪我もせずに長く走り続けてきたことこそ素晴らしい。僕もこの5ヶ月いろいろとあったけれど、何とか体を壊さずに走ってきた。 「僕も自転車は好きやけど、こんなの見たのは初めてやなぁ。いや、今日はいいもん見せてもらいました」 偶然のリキシャとの出会いを素直に喜んでくれた。そんな風に言ってもらえると、はるばる福井までやってきた甲斐がある。 ![]() 【元競輪選手の今の愛車は意外に小さな自転車だった】 ![]() 【5円タクシーに乗っていただいたご夫婦。生後2ヶ月の赤ちゃんを連れていた。本当に生まれたてでかわいい】 福井市を通過して越前市へ。ここに叔父夫婦が住んでいるので、今夜はそこに泊めてもらうことにする。 叔父の家を訪ねるのは10年以上ぶりのことだが、その当時は「武生市」と呼ばれていた。それが2005年に今立町と合併して「越前市」と名前を変えた。今では住所にも「武生」の文字は出てこない。ややこしいことに、この「越前市」には「越前町」と「南越前町」という町が隣接している。そんなに「越前」を猛プッシュしなくてもいいじゃないかと思ってしまう。 越前市と同じように、平成の大合併によって日本全国に新しい「市」が数多く誕生した。本来は「町」や「村」であるべき規模の地域が、どれも同じように「市」に統一されてしまったので、はじめて訪れる人間にはその地域の規模が掴みづらくて困ってしまう。とんでもない田舎が「市」を名乗っているのには相当に違和感がある。 ![]() 叔父の家は越前市の市街からは離れていて、自然が豊富な場所である。目の前には扇状に広がる田んぼが、背後には切り立った山が迫っている。のどかな田園風景だ。子供の頃、よく夏休みにここに遊びに来たのだが、その当時とまったく変わらない。 山にはイノシシや猿、鹿などが住んでいて、ときどきエサを求めて集落に降りてくることもあるそうだ。イノシシは近くを流れる小川にいるカニやミミズなどを食べているという。 *********************************************** 本日の走行距離:82.4km (総計:6191.9km) 本日の「5円タクシー」の収益:825円 (総計:72505円) *********************************************** #
by butterfly-life
| 2010-09-28 07:53
| リキシャで日本一周
昨日はザーザー降りの雨だったのでリキシャはお休みにした。これでゴールの10月2日まで一日たりとも無駄にはできなくなってしまった。タイトスケジュール。持ち時間を使い果たしたあとの棋士みたいな心境だ。「にじゅうびょう・・・・じゅうびょう・・・ご、よん・・・先手、五四金」みたいな。
でもまぁ何とかなるだろうと楽天的に考えている。リキシャがぶっ壊れたときも、100キロ以上の距離を歩いて進むことができた。その経験が「何が起きても何とかなる」という自信にも繋がっている。 今日は高岡市から石川県に入り、金沢市、小松市まで行く予定。 朝から強い風が吹き付けていたが、数日前までとは正反対の追い風だったので助かった。何度も書いているが、リキシャは風に左右される乗り物である。追い風なら時速16,7キロが簡単に出せるのだが、向かい風だとどんなに頑張っても時速10キロがせいぜいになる。ペダルの重さも疲労度もまったく違う。結局今日は76キロ走ったのだが、追い風のおかげでほとんど疲れを感じずに済んだ。 高岡市福岡町では少々変わったお祭りが開かれていた。「つくりもんまつり」といってカボチャやナスやオクラなどの野菜を使ってさまざまな人形(つくりもん)を作り、その出来を競う祭りらしい。 この町には300年以上前から、秋に収穫した野菜をお地蔵様に奉納する習慣があったそうだ。やがてそれが野菜を使った人形作りに変わり、祭りの規模も大きくなっていった。地元のテレビや新聞にも取り上げられ、「つくりもん」が巨大化し、使う野菜の量も増えていったという。 しかし10年ほど前からは徐々に祭りの規模も縮小してきている。不況のあおりで協賛する企業が減り、町の高齢化も進んでいるので、「つくりもん」を作る人が減ってきたのだ。今年出展された「つくりもん」は33体。地味で素朴な「原点回帰」的な作品が多いという。 ![]() 「つくりもん」が飾られたテントは、福岡町の広い範囲に点在している。アンパンマンやゲゲゲの鬼太郎などのアニメキャラを模したものや、坂本龍馬や大伴家持などの歴史上の人物などをテーマにした作品が多い。出来がいいものもあれば、いまいちなものもある。一等に選ばれると賞金がもらえるということもあって、それぞれに趣向を凝らした作品になっている。 ![]() ![]() これとよく似たお祭りを、まったく別の場所で見た記憶があった。 あれは一体どこだったっけ。 しばらくあれこれと考えた末に、ようやく思い出した。そうだ、東ティモールだ。 東ティモールはキリスト教の国なので、毎年のクリスマスは国を挙げて盛大に祝う。その一環として開かれているのが「全国馬小屋コンテスト」だった。「馬小屋」とはイエス・キリストが生まれた場所。東ティモールでは村ごとに小さな馬小屋のレプリカを作り、その中に聖母マリアとキリストの像を置いて、キリストの生誕を祝うのである。 ある村の馬小屋には芝生がきれいに敷き詰められていた。別の村の馬小屋は赤や黄色の電飾で飾り付けられていた。スピーカーとアンプを置いてレゲエ音楽を流している馬小屋もあった。 村の若者が馬小屋作りに熱心なのは、国で一番優れた馬小屋を作った村には政府から豪華賞品が贈られるからだという。 「つくりもんまつり」も「馬小屋コンテスト」も、もともと宗教的な行事として始まったイベントが、作品それ自体の出来映えを競うように変質したという同じような経緯を辿っている。何かを作れば優劣を競いたくなるし、次回はもっといいものを作ってやろうと考える。そういう人間の性質は世界中どこでも同じなのだろう。 ![]() 【これが東ティモールの「馬小屋」。サンタの表情が怖いですね】 富山県ではほとんどの田んぼがすでに刈り取りを終えていた。 農家の庭先で脱穀した後の籾殻を袋に詰めているご夫婦がいた。脱穀機にかけた後の「かす」をトラックに積んで、収穫が終わった後の田んぼにまくのだという。土の養分になるのだ。 「今年は暑かったから、あまり米の出来は良くなかったよ」と奥さんはため息混じりに言う。「例年の85%ぐらいかねぇ。野菜も暑さにやられてダメだったしねぇ」 北海道や東北では、猛暑のおかげで米が例年になく豊作だと聞いていたが、北陸まで下ると暑さが稲へのダメージになってしまったようだ。暑すぎてもダメ、寒すぎてもダメ。自然を相手にした農業の難しいところだ。 ![]() 峠をひとつ越えて石川県に入る。 金沢は「小京都」と言われるだけあって、古い街並みが残っているところが多かった。長町の武家屋敷の土塀などは丁寧に保存されていて美しい。けれども先を急がなければいけなかったので、ほんの少し見回っただけで、兼六園にも寄らずに金沢市を後にした。まぁいい。いつかまた来ることがあるだろう。 国道8号線を南下して、小松市に向かう。 特にこれといった特徴のない町だが、ここには「松井秀喜ベースボールミュージアム」なるものがある。松井選手の故郷なのだ。 まだ現役で活躍中なのに、博物館が建っているというのはすごい。僕は松井選手と同い年なんだけど、高校生の頃から彼が同級生だとは思えなかった。抜群の運動能力も、落ち着き払った態度も、頭の大きさも、全てが「超高校級」だった。 *********************************************** 本日の走行距離:76.3km (総計:6109.4km) 本日の「5円タクシー」の収益:10円 (総計:71680円) *********************************************** #
by butterfly-life
| 2010-09-27 07:03
| リキシャで日本一周
この一週間、さえない天候が続いている。秋雨をもたらす前線がリキシャの動きに合わせて移動しているようにも思えてくる。行けども、行けども、雨。また雨だ。
今朝は窓を叩く激しい雨音で目を覚ました。これではリキシャで走るのは無理だなぁと思って二度寝していると、そのあいだに雨は上がっていた。完全にやんだわけではないが、走ろうと思えば走れる。そういう微妙な天気だ。 こういうときに重い腰を上げるのには力がいる。体は疲れていて、「そろそろ休ませてくれよ」と言っているのだが、その一方で「こんなところでぐずぐずしているわけにはいかない」という気持ちもある。ゴールの日にちを決めているから、丸一日を無駄に過ごしている余裕がないのだ。 というわけで荷物をまとめてリキシャに乗る。たいした雨ではないから、カッパを着ればなんとか走れる。 魚津市を出て海岸線を西へ進むと、すぐに滑川市に入った。滑川市(ちなみに「なめかわ」ではなくて「なめりかわ」と読む)はホタルイカの水揚げが多く、「ほたるいかミュージアム」なる建物や、「ほたるいか祭り」や「ほたるいかマラソン」といったイベントが行われているそうだ。 ちなみに10月10日に行われる「ほたるいかマラソン」のポスターには、「ほたるいかの光りのように 輝く自分を見つけよう」という取って付けたようなキャッチコピーが書かれていた。ほたるいかのように、ねぇ。微妙だね。 ![]() しばらく走ると雨脚が強くなってきたので、国道沿いにあるうどんチェーン「丸亀製麺」で早めの昼食をとる。厨房で働いているおばちゃんたちが駐車場に止めてあるリキシャを見て、「これで日本一周してるの?」と目を丸くした。 そうなんですよ、と答えると、「それじゃサービスしてあげるよ」と言って、かしわの天ぷらやおにぎりをタダで付けてくれた。ありがとうございます。個人経営の食堂ならいざ知らず、全国展開しているチェーン店なのにこういう融通が利くところが素晴らしい。 西日本を中心にチェーン展開している「丸亀製麺」は、この旅で頻繁に利用しているお店のひとつだ。讃岐うどんのおいしさと、揚げたての天ぷらのボリューム、それに値段の安さが気に入っている。働いているおばちゃんたちが一様に明るいところもいい。マニュアル通りに「いらっしゃいませー!」「ありがとうございまーす!」と連呼するだけのロボット的店員ではなくて、従業員一人一人にちゃんと表情があるのだ。 この5ヶ月間、日本全国を旅しながら様々な外食チェーンを利用してきたわけだけど、ここで僕が独断と偏見で決める「全国外食チェーンランキング」を発表したいと思う。(このランキングは「安さ」と「ボリューム」に重きを置いていることをご了承いただきたい。リキシャを漕ぐためには何よりもカロリーが必要だからだ) 第一位は「丸亀製麺」。 おばちゃんにサービスしてもらったから一位になったわけではない。味もボリュームも安さも、全てが満足できるレベルなのだ。僕のお薦めは「とろろぶっかけうどん」と「かしわの天ぷら」である。讃岐うどんのコシの強さとツルツルとした喉ごしが、300円台という低価格で味わえるのは本当にすごい。 第二位は「ジョイフル」。 九州で圧倒的なシェアを誇るファミレスチェーンである。ツイッターでもたびたびつぶやいているが、ここの売りはなんと言っても安さ。特に日替わりランチはおかずのボリュームもあり、ライスも大盛りにできるのに、400円という信じられない価格。ドリンクバーも安いので、いつもお客さんで混み合っている。 残念なのは、いまのところ関東より東にはほとんど出店していないこと。今後はジョイフルにどんどん東に進出してもらって、中途半端なファミレス(どことは言わないが)を蹴散らしてもらいたいものである。 第三位は「サイゼリア」。 言わずと知れたイタリアン・ファミレス。ここも安さを売りに全国展開しているが、それでいてピザもパスタも決して味は悪くない。僕のおすすめは「真イカとアンチョビのピザ」。たっぷりと汗をかいた体にアンチョビの塩気がたまらない。ハウスワインが信じられないぐらい安いのも嬉しい。 第四位は「ビッグボーイ」。 店舗数はあまり多くはないが、地味に全国展開しているハンバーグレストラン。なぜか北海道に多かった。ここの売りは充実のサラダバー。ハンバーグとセットにするとそれなりの値段にはなるが、新鮮しゃきしゃきのサラダを好きなだけ食べられるのは魅力的。外食ばかり続けていると不足しがちな野菜がたっぷりと補給できるのは嬉しかった。 ちなみにこの「ビッグボーイ」。なぜか場所によっては「ビクトリアステーション」とか「ミルキーウェイ」といった違う名前の看板を掲げているのだが、経営母体は同じらしくて、名前は違ってもメニューと値段はまったく同じなのである。どうして「異名同根」という不思議な戦略をとっているのかは不明。でもおいしい。 第五位は「マクドナルド」。 マックって安いことは安いけれど、正直言ってあまりおいしくないなぁと思っていたのだけど、その認識を一変させたのが、朝限定メニューの「ソーセージマフィン」である。これはうまい。なのに100円。これには驚いた。肉のうまみも、カリッとしたパンの食感も、通常のハンバーガーよりはるかに上質だ。しかし朝にしか食べられないというのは残念だ。だから今のところマック(ああしまった、関西人はマクドって言うんだった)を利用するのは朝だけである。 閑話休題。 リキシャの旅に戻ろう。 滑川市を西に進み、富山市に入る。しかし富山市では市街地に入らずに、北部の国道を走り抜けただけなので、これといって書くべき事はない。富山市民の皆さんには申し訳ないが、北風が強かったことと、横殴りの雨に難儀したことぐらいしか印象に残っていない。穏やかな晴天に恵まれていたら、もっと違った富山を味わえたに違いないのだが、旅の印象というのは往々にして天候に大きく左右されてしまうものなのである。 思い出した。富山市でひとつだけ印象に残ったものがあった。 神通川にかかる長い橋を渡りきったところに、古い白黒写真が落ちていたのである。雨に濡れてふやけてはいたが、写っている女性の姿はまだ鮮明だった。 僕はリキシャを止めて、その写真に見入った。結婚式のときに撮られたもののようだった。写っているのは豪華な着物を着て角隠しを被った若い女性。もう一枚の写真には、古いかたちの自動車に乗り込もうとしている花嫁の姿がある。撮られたのは戦後間もない頃だろうか。ひょっとしたら戦前かもしれない。いずれにしても半世紀以上前の貴重な写真であることは間違いない。 ![]() それにしても、どうしてこんなに古い写真が道ばたで雨ざらしになっているのだろうか。それが不思議で仕方なかった。仮説はいくつか考えられる。たとえば、写真に写っている女性が住んでいた家が取り壊されたときに、この写真だけ風に飛ばされてしまったとか。あるいは、亡くなったおばあちゃんの遺品整理をしているときに、たまたま通りかかった野良猫がこの写真を気に入ってくわえて行ってしまったとか。 一枚の写真からあれこれと想像を膨らませるのは楽しい。古い写真はタイムカプセルのようなもので、何十年も後になって見直すと、まったく別の価値が生まれてくる。 僕がこの旅で撮った写真も50年後(そのときまで生きているだろうか?)に見直すことがあれば、また違う発見があるに違いない。 午後からは再び雨脚が強まったので、富山市から高岡市までひたすらリキシャを漕ぎ続けた。風は強かったが、昨日のような向かい風でないのが救いだった。 天気予報では「この雨は空気を夏から秋に入れ換えるでしょう」と言っていたが、本当にその通りで、午後になると朝方よりもずいぶんと気温が下がってきた。リキシャを漕いでいてもだらだら汗をかくことはなかった。 4時過ぎに高岡市に到着した。駅前では「ツイッターを見てますよ」という女性に声を掛けられた。アルバイトに行く途中、たまたまリキシャを見かけたので驚いたそうだ。 彼女によれば、高岡市は地味な町で、銅を使った仏具や鐘の生産で有名なのだそうだ。日本三大仏(!)のひとつ高岡大仏も銅で作られている。アルミサッシの生産額日本一の町としても知られているそうだ。金属加工の町、高岡。なかなかすごいじゃないですか。 *********************************************** 本日の走行距離:46.6km (総計:6033.1km) 本日の「5円タクシー」の収益:5円 (総計:71670円) *********************************************** #
by butterfly-life
| 2010-09-24 20:26
| リキシャで日本一周
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■ 新しいブログへ ■ 三井昌志プロフィール 写真家。1974年京都市生まれ。東京都在住。 機械メーカーで働いた後、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。 帰国後ホームページ「たびそら」を立ち上げ、大きな反響を得る。以降、アジアを中心に旅を続けながら、人々のありのままの表情を写真に撮り続けている。 出版した著作は8冊。旅した国は39ヶ国。 ■ 三井昌志の著作 ![]() 「渋イケメンの国」 本物の男がここにいる。アジアに生きる渋くてカッコいい男たちを集めた異色の写真集です。 (2015/12 雷鳥社) カテゴリ
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